検診で「歯周ポケットが深いですね」と言われ、意味がよく分からないまま帰ってきた方は少なくありません。
歯科医師の坂本祥子です。
深いポケットは、正しく磨き、治療を受ければ浅くできることが多いものです。
この記事では、検査の数字の読み方と、言われたその日から始めたいセルフケア、歯科医院で進む治療の流れをまとめました。
焦らなくて大丈夫ですが、放っておかないことが肝心です。

「歯周ポケットが深い」とはどういう状態か

健康な溝は1〜2mm、4mmを超えたら歯周病が進み始めています

歯と歯ぐきの境目には、もともと浅い溝があります。
厚生労働省のe-ヘルスネット「歯周病の検査」によると、健康な歯ぐきでは1〜2mm程度で、歯周病になると3mmを超え、重症では10mmを超えることもあるそうです。

溝が深くなるのは、歯垢の中の細菌が出す毒素で歯ぐきが腫れ、歯と歯ぐきをつなぐ部分が壊れていくためです。
深くなった溝の奥は歯ブラシの毛先が届かないので、細菌がさらに増え、また深くなる、という悪循環に入ります。

ポケットの深さ歯ぐきの状態の目安
1〜3mm健康、または歯肉炎(歯ぐきだけの炎症)
4〜5mm軽度〜中等度の歯周炎。歯を支える骨が溶け始めている
6mm以上中等度〜重度の歯周炎。歯の揺れや膿が出ることも

数字の区切りはあくまで目安で、実際の診断はレントゲンで骨の状態も見て決めます。

50代前後では4割以上の人に4mm以上のポケットがあります

「自分だけ悪いのでは」と落ち込む方がいますが、そうではありません。
厚生労働省の令和4年歯科疾患実態調査では、4mm以上の歯周ポケットがある人は全体の47.9%でした。
45〜49歳で43.4%、55〜59歳では49.6%と、年齢とともに増えていきます。

私と同世代の50代の患者さんにこの数字をお見せすると、「みんなそうなんですね」と少しほっとした顔をされます。
ただ、よくあることだから放っておいていい、という意味ではないので、そこは誤解しないでくださいね。

痛くないから大丈夫、とは言えません

歯周病は、かなり進むまで痛みがほとんど出ません。
4〜5mmの段階では、歯みがきのときに少し血が出る、朝起きると口がねばつく、といった程度の変化しかないことも多いです。
痛みや揺れを感じて来院したときには、骨がだいぶ減っていたという例を、診療室で何度も見てきました。

検査結果の数字の読み方

1本の歯を4〜6か所で測っています

ポケットの検査では、目盛りのついた細い器具(プローブ)を歯と歯ぐきの間に入れて深さを測ります。
1本の歯を表側と裏側の数か所ずつ測るので、記録用紙には数字がびっしり並びます。
e-ヘルスネットによると、測るときの力は約25gと軽く、痛みはほとんどありません。

記録用紙を受け取ったら、まず「4」以上の数字がどこに、いくつあるかを見てください。
4mmが数か所だけなのか、6mm以上が奥歯にまとまっているのかで、治療の進め方も変わります。

深さと一緒に見たいのは「出血」と「揺れ」

数字と並んで、測ったときに血が出た場所に印がついていることがあります。
測っただけで出血するのは、ポケットの中で炎症が続いているサインです。
同じ5mmでも、血が出ない5mmと出る5mmでは、後者のほうが今まさに進んでいると考えます。

歯の揺れ(動揺度)も一緒に記録されていれば、骨がどれくらい支えられているかの手がかりになります。

歯科医院で聞いておきたいこと

診療の場で質問するのは気が引けるかもしれませんが、聞いてくださる患者さんのほうが治療はうまく進みます。
次のようなことを、メモを見ながらでいいので尋ねてみてください。

  • いちばん深いのはどの歯で、何mmですか
  • 測ったときに出血した場所はどのくらいありますか
  • レントゲンで見て、骨はどのくらい減っていますか
  • 私の磨き方で、届いていないのはどこですか
  • 治療は何回くらい通って、いつ再検査をしますか

言われた日から始めるセルフケア

歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目に当てる

日本歯周病学会の歯周病Q&A「歯周病の治療」には、治療でもっとも大事なのは医院での処置ではなく、毎日の歯みがきで自分で歯垢を取り除くことだと書かれています。
私も診療室で、まったく同じことを毎日のようにお伝えしています。

磨くときは、毛先を歯と歯ぐきの境目に当てて、小刻みに動かしてください。
力を入れてゴシゴシこする必要はありません。
歯ぐきが下がってきている方は、やわらかめの歯ブラシのほうが傷めずにすみます。

歯と歯の間は歯間ブラシやフロスで

歯周ポケットが深くなりやすいのは、歯と歯の間です。
歯ブラシだけでは歯と歯の間の汚れが残りやすいので、1日1回は歯間ブラシかフロスを通しましょう。
歯間ブラシは太さがいくつもあり、きつすぎると歯ぐきを傷めるので、合うサイズは歯科衛生士に選んでもらうのがいちばんです。

私自身、若いころは歯並びがひどくデコボコで、重なった歯の間はいくら磨いても汚れが残りました。
歯並びの悪い場所はポケットが深くなりやすいので、そうした場所こそ道具を使い分けてほしいと思います。

磨いて血が出ても、やめないでください

ポケットが深いと言われた方からよく聞くのが、「磨くと血が出るから怖くて控えている」という声です。
出血は炎症があるしるしで、汚れを落とせば1〜2週間ほどで落ち着いてくることがほとんどです。
やさしく磨き続けるほうが早く治ります。

一方で、2週間以上ていねいに磨いても出血が続く、歯ぐきから膿が出る、といった場合は、セルフケアだけでは届かない深さまで進んでいる可能性があります。
次の受診を待たずに相談してください。

歯科医院で進む治療の流れ

歯みがきの練習と歯石取りから始まります

歯周病の治療は、多くの場合、次のような順番で進みます。

段階内容
検査ポケットの深さ、出血、揺れ、レントゲンで骨の状態を調べる
基本の治療歯みがきの練習、歯石取り、合わない詰め物の調整など
再検査ポケットが浅くなったかを確かめる
外科処置(必要な場合)深いポケットが残った場所だけを処置する
メインテナンス定期的に通い、良い状態を保つ

日本歯周病学会のQ&Aでは、歯垢の残り具合(プラークコントロールレコード)が20%未満になるのを目標にし、それができてから歯石取りなどを進めるとされています。
歯ぐきの下の歯石は、何回かに分けて取るのが一般的です。

再検査で深いポケットが残れば、外科処置を検討します

基本の治療をしっかり行うと、4〜5mmのポケットは浅くなることが多いです。
それでも6mm以上が残った場所には、歯ぐきを開いて奥の歯石を取る外科処置をすすめることがあります。
同じQ&Aによると、手術は局所麻酔で行うのが一般的で、時間は1〜2時間ほど、入院は必要ありません。

骨の溶け方によっては、骨の再生をうながす治療を選べる場合もあります。
健康保険が使える薬剤と自費になる材料があるので、費用も含めて担当の先生とよく話し合ってください。

治療が終わってからが本番です

ポケットが浅くなっても、歯周病は再発しやすい病気です。
同じQ&Aには、定期健診は年に3〜4回が良いとされているとあります。
間隔は歯石のつきやすさによって変わるので、担当の先生と相談して決めましょう。

和菓子づくりでも、餡を炊くより、毎日の道具の手入れのほうがずっと地味で大事だったりします。
歯ぐきも同じで、治療で整えたあとの手入れが、10年後の歯の本数を決めます。

深いポケットを放っておくとどうなるか

歯を失う原因でいちばん多いのは歯周病です

8020推進財団の「第2回 永久歯の抜歯原因調査報告書」では、抜歯の原因の37.1%が歯周病で、むし歯を上回って1位でした。
ポケットが深いまま骨が溶けていくと、歯は少しずつ揺れはじめ、最後は抜くしかなくなります。

たばこと糖尿病は歯周病を悪化させます

同じ報告書では、40〜69歳で歯周病が原因で抜歯した割合が、喫煙者で48.0%、非喫煙者で38.7%でした。
65歳以上で糖尿病のある人では、抜歯の55.0%が歯周病によるものです。

たばこを吸う方は、歯ぐきの血の流れが悪くなって出血しにくいため、悪くなっていることに気づきにくい面もあります。
糖尿病の方は、血糖のコントロールと歯ぐきの治療を両方進めることで、どちらにも良い影響が期待できるといわれています。
持病やたばこのことは、遠慮せず歯科医院に伝えてください。

まとめ

「歯周ポケットが深い」と言われたら、まず検査結果で4mm以上の場所と出血の有無を確かめ、その日から歯と歯ぐきの境目、歯と歯の間を意識して磨き始めてください。
そのうえで、歯石取りと再検査まで通い切ることが大切です。

4〜5mmのうちに手を打てば、多くの場合ポケットは浅くできます。
30年あまり歯科医師を続けてきて、毎日の手入れを続けた方の歯ぐきが少しずつ引き締まっていく様子を何度も見てきました。
次の受診のときには、検査の用紙を一緒に見ながら、気になることを遠慮なく聞いてくださいね。