「インプラントを勧められたけれど、何をされて、いつ終わるのか見当がつかない」。
診察室でそんな顔をされる方に、私はこれまで何度もお会いしてきました。

文京区で歯科医院を開いている坂本祥子です。
インプラントは、相談と検査、手術、骨とのなじみを待つ期間、歯を入れる段階と進み、完成までには数か月から1年ほどかかります。
この記事では、その道のりを順番にたどっていきます。

インプラント治療は大きく4つの段階で進みます

全体の流れを表で見てみましょう

日本口腔インプラント学会は、患者さん向けのページ「相談から治療の流れ」で、治療を12のステップに分けて紹介しています。
細かく見ると12ですが、患者さんの体感としては次の4つの段階にまとめると分かりやすいと思います。

段階主にやること期間の目安
①相談・検査・準備カウンセリング、CTや血液検査、むし歯や歯周病の治療、必要なら骨を増やす処置1〜2か月(骨を増やす場合はさらに数か月)
②手術インプラント(人工の歯根)をあごの骨に埋める手術は1日
③骨とのなじみを待つインプラントと骨がしっかり結びつくのを待つ2〜6か月ほど
④歯を入れる仮歯で使い心地を確かめ、最終的な歯を装着する1〜2か月

期間はあくまで目安です。
骨の量や硬さ、上あごか下あごか、何本埋めるかで大きく変わります。

完成までは「数か月から1年」が目安です

初診の日から最終的な歯が入るまで、骨の状態がよい方なら半年前後で終わることもあります。
一方、骨を増やす処置が先に必要な方は、それだけで数か月を足すことになり、1年を超えることもめずらしくありません。

途中の「待つ期間」は、通院の回数が少なくなります。
毎週のように通い続けるわけではないので、お仕事をされている方でも続けやすい治療です。
ただ、その間は歯のない部分ができることもあるため、見た目が気になる方は仮の歯や入れ歯を入れられるか、最初に相談しておくと安心です。

手術の前に行う「相談・検査・準備」の段階

初診のカウンセリングで伝えておきたいこと

最初の相談では、困っていることや希望を伺うのと同じくらい、全身の健康状態を確認します。
インプラントは外科手術なので、持病やお薬によっては、治療の進め方を変えたり、内科の先生と連携したりする必要があるからです。

国民生活センターが2019年に公表した報告では、骨粗しょう症の薬を飲んでいたのに、そのまま治療を進められたという相談事例が紹介されています。
こうしたことを防ぐために、初診では次のことを遠慮なく伝えてください。

  • 糖尿病、高血圧、心臓病などの持病
  • 飲んでいるお薬(骨粗しょう症の薬、血液をさらさらにする薬は特に)
  • 喫煙の習慣
  • 歯ぎしりや食いしばりの自覚
  • 治療を終えたい時期や、通院できる曜日

お薬手帳を持っていくのがいちばん確実です。
「関係ないかな」と思うことでも、歯科医師にとっては大事な判断材料になります。

CTを含む精密検査で骨と神経を確かめます

次は、お口全体の検査とエックス線撮影です。
インプラントでは、あごの骨の厚みや高さ、神経や血管の位置を立体的に知る必要があるので、多くの場合はCTを撮ります。
あわせて血液検査で、手術に差し支える病気が隠れていないかも調べます。

国民生活センターが治療経験者に行ったアンケートでは、手術前にCT検査を受けた人は約6割、検査も質問もなかったという人が約2割いました。
私の感覚では、CTを撮らずに骨の中へ器具を入れるのは、地図を持たずに山へ入るようなものです。
検査の段階で「CTは撮りますか」と聞いてみるのは、医院選びの確かな目安になります。

むし歯・歯周病の治療と、骨が足りないときの処置

検査の結果、むし歯や歯周病が見つかれば、インプラントの前に治しておきます。
歯周病菌はインプラントのまわりにも炎症を起こすので、ここを後回しにするとせっかくのインプラントが長持ちしません。

骨の量が足りない場合は、骨を増やす処置(骨造成)を行います。
ご自分の骨を別の場所から少し採って移したり、人工の骨補填材を使ったりする方法があります。
上の奥歯では、鼻の横にある空洞(上顎洞)の底を持ち上げて骨を作る「サイナスリフト」という方法もあります。
骨造成をインプラントの手術と同時に行えることもありますが、先に行って骨が育つのを3〜4か月ほど待ってから、改めて検査する場合もあります。

手術から歯が入るまでの段階

一次手術(インプラントを埋める日)の流れ

インプラントを埋める手術は、通常は局所麻酔で行います。
歯ぐきを開いて骨に小さな穴をあけ、インプラントを埋め込みます。
1本であれば、手術そのものは1時間前後で終わることが多いです。

緊張が強い方には、うとうとした状態で手術を受けられる「静脈内鎮静法」を用意している医院もあります。
怖さが強い方は、検査の段階で相談してみてください。

手術後は数日、腫れや痛みが出ることがあります。
痛み止めで落ち着くことがほとんどですが、強い痛みやしびれが続くときは、我慢せずに早めに連絡してください。
国民生活センターの報告にも、手術直後からの痛みやしびれを経過観察とされたという相談が載っています。
術後の連絡先と、どんな症状なら連絡すべきかを、手術前に紙でもらっておくと安心です。

骨とくっつくのを待つ治癒期間

手術のあとは、インプラントと骨がしっかり結びつくのを待ちます。
期間は骨の硬さやインプラントの種類によって違いますが、2〜6か月ほどが目安です。
一般に、下あごより骨がやわらかい上あごのほうが長めにとります。

手術の方法には「1回法」と「2回法」があります。

1回法2回法
手術の回数1回2回
手術直後の状態インプラントの頭が歯ぐきの上に出ている歯ぐきで完全に覆って閉じる
向いているケース骨の量・硬さが十分ある骨が少ない、骨造成を同時に行った
体への負担手術が1回で済む2回目の手術が必要だが、感染を防ぎやすい

どちらが優れているというより、お口の状態に合わせて選ぶものです。
説明を受けるときに「私はどちらですか、なぜですか」と聞いてみてください。

二次手術から仮歯、最終的な歯へ

2回法の場合は、骨となじんだころに歯ぐきを小さく開き、インプラントの頭を出す二次手術を行います。
一次手術に比べると小さな処置で、歯ぐきが落ち着くまで数週間待ちます。

そのあと型取りとかみ合わせの記録をして、まず仮歯を入れます。
学会の解説でも、仮歯の段階で見た目、かみ心地、発音、清掃のしやすさを確かめるとされています。
私はこの仮歯の期間をとても大切にしています。
実際に食事をして「右で噛むと少し当たる」「サ行が言いにくい」といった声を聞き、それを最終的な歯の設計に生かせるからです。

最後に色や形を整えた最終的な歯(上部構造)を作り、装着して治療はひと区切りです。

費用の目安と、支払いで知っておきたいこと

1本あたりの費用と、見積もりで確認したい項目

インプラントは、病気や事故であごの骨を広く失った場合など一部の例外を除いて、健康保険が使えない自由診療です。
費用は医院によって差がありますが、1本あたり30万〜50万円前後の医院が多い印象です。
国民生活センターに寄せられた相談でも、契約金額が分かった240件のうち46.3%が100万円以上でした。
何本も入れる場合や骨造成が加わる場合は、それだけ金額がふくらみます。

見積もりをもらったら、次の項目が含まれているかを確かめてください。

  • 検査・診断料(CTを含む)
  • 一次手術・二次手術の費用
  • 骨造成など追加の処置の費用
  • 仮歯と最終的な歯の費用
  • 治療後のメンテナンス費用と、保証の有無や期間

広告で見かける「1本〇万円」という金額が、手術だけの値段だったということもあります。
総額でいくらになるかを、書面で出してもらうのがいちばんです。

医療費控除と歯科ローンの扱い

噛む機能を取り戻すための歯科治療の費用は、確定申告で医療費控除の対象になり得ます。
国税庁の「No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」には、歯科ローンで支払った場合、信販会社が立て替えた金額はその年の医療費控除の対象になり、金利や手数料は対象外になると書かれています。
このページにインプラントの名前は出てこないので、ご自身のケースで迷ったら税務署に確認されると確実です。
領収書は、治療の途中のものも含めて捨てずにとっておきましょう。

歯が入ってからが本番の「メンテナンス」

3か月〜半年ごとの定期検診

最終的な歯が入ると「やっと終わった」とほっとされますが、私は患者さんに「ここからが本番ですよ」とお伝えしています。
インプラントはむし歯にはなりませんが、まわりの歯ぐきや骨が炎症を起こす「インプラント周囲炎」にはなります。
しかも痛みが出にくいため、気づいたときには骨が減っていることがあります。

日本口腔インプラント学会は、メンテナンスの頻度は3か月〜半年が一般的としています。
ところが国民生活センターのアンケートでは、治療経験者の約4割がメンテナンスを受けていませんでした。
高い費用と長い時間をかけた歯を守るために、定期検診の予約は治療の一部だと考えてください。

自宅でのお手入れのポイント

毎日のケアでは、ご自分の歯よりも少し丁寧さが必要です。

  • 歯ブラシは、歯と歯ぐきの境目を特によく磨く
  • 歯間ブラシやデンタルフロスで、インプラントと隣の歯の間も掃除する
  • 奥まった部分には、毛束の小さいタフトブラシが便利
  • 歯ぎしりのある方は、夜用のマウスピースを相談する

お手入れの道具は、メンテナンスのときに歯科衛生士に合ったサイズを選んでもらうのが近道です。

治療前に聞いておきたい「その後」のこと

最後に、これから治療を受ける方へお願いがあります。
手術の話だけでなく、完成したあとのことも治療前に聞いておいてください。
メンテナンスにどれくらいの頻度で通うのか、その費用はいくらか、トラブルが起きたらどう対応してもらえるのかを確かめておくと、長いお付き合いが始めやすくなります。

国民生活センターの調査では、手術中や手術後のリスクについて説明や書面を受けた人は4人に1人でした。
分からないことを質問するのは、失礼なことではありません。
納得できる説明が得られないときは、別の歯科医院でセカンドオピニオンを受けるのも大切な選択肢です。

まとめ

インプラント治療は、相談と検査、手術、骨とのなじみを待つ期間、歯を入れる段階と進み、完成までには数か月から1年ほどかかります。
長く感じるかもしれませんが、どの段階にも省けない理由があります。

これから始める方は、持病やお薬を正直に伝えること、CTを含む検査を受けること、費用を総額で確認すること、そしてメンテナンスまでを治療と考えることを意識してみてください。
和菓子作りでも、生地を寝かせる時間を惜しむと、口当たりがまるで変わってしまいます。
インプラントの「待つ期間」も同じで、焦らず整えた分だけ、長く噛める歯になってくれます。