こんにちは、歯科医師の坂本祥子です。
文京区で「坂本歯科クリニック」を開業し、20年以上にわたって地域の皆さまのお口の健康を見守ってまいりました。
「うちの子、少し歯がガタガタしている気がする…」
「受け口かもしれないけれど、まだ乳歯だし様子を見ていていいのかしら?」
お子さんの成長とともに、こうした歯並びに関するお悩みを抱える保護者の方は少なくありません。
私自身も子どもの頃、歯並びで苦労した経験がありますので、親御さんのご心配は痛いほどよくわかります。
歯並びの問題は、見た目だけでなく、虫歯のリスクや発音、噛み合わせ、ひいては全身の健康にも影響を及ぼすことがあります。
だからこそ、「いつから気にすべきか」「いつ専門家に相談すれば良いのか」というタイミングを知っておくことが、とても大切なのです。
この記事では、多くの方が抱える疑問に、歯科医師の立場から丁寧にお答えしていきます。
お子さんの健やかな未来のために、正しい知識を一緒に学んでいきましょう。
目次
結論:「6〜8歳」が最初の相談タイミング。その理由とは?
「子どもの歯並び、いつから気にすべき?」というご質問に、まず結論からお答えします。
歯科医院への最初の相談は「6歳〜8歳頃」が理想的です。
具体的には、上下の前歯4本が永久歯に生え変わり、最初の永久歯である「6歳臼歯」が生えてくる頃がひとつの目安となります。
もちろん、3歳児健診などで受け口(反対咬合)を指摘された場合など、もっと早くからの相談が望ましいケースもあります。 しかし、多くのお子さんにとって、この「6歳〜8歳頃」が矯正治療を考える上で非常に重要な時期となるのです。
なぜこの時期が大切なのでしょうか。それには、お子さんの成長段階に合わせた3つの大きな理由があります。
理由1:顎の成長をコントロールしやすい「ゴールデンタイム」
6歳から12歳頃は、お子さんの身長がぐんと伸びるのと同じように、顎の骨も活発に成長する時期です。
この成長期に矯正治療を始めることで、顎の成長を良い方向にコントロールしやすくなります。
例えば、顎が小さくて歯が並ぶスペースが足りない場合、顎の成長を促して横に広げることで、将来きれいに歯が並ぶための土台を作ることができます。
これは、成長期のお子さんだからこそ得られる大きなメリットです。
理由2:永久歯が生えるスペースを確保できる
顎の成長をコントロールできるということは、これから生えてくる永久歯のためのスペースを確保できる、ということにも繋がります。
乳歯の段階で歯がぎっしりと隙間なく並んでいると、それより大きな永久歯が生えてきたときにスペースが足りず、ガタガタの歯並び(叢生)になってしまう可能性が高くなります。
早期に治療を開始することで、顎を広げてスペースを作り、永久歯が正しい位置にスムーズに生えてくるよう導くことができるのです。
理由3:お子さん自身の負担を軽減できる可能性がある
顎の成長を利用した治療は、骨がまだ柔らかい時期に行うため、歯を動かす際の痛みが比較的少ないと言われています。
また、早期に土台作りをしておくことで、将来的にすべての歯が永久歯に生えそろってから行う本格的な矯正治療(第二期治療)が不要になったり、治療期間が短くなったり、健康な歯を抜かずに済む可能性が高まったりします。
結果として、お子さん自身の心身の負担や、ご家庭の経済的な負担を軽減できることにも繋がるのです。
なぜ歯並びは悪くなるの?遺伝だけではない3つの原因
「歯並びは遺伝だから仕方ない」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。
確かに遺伝的な要因はありますが、それだけが原因ではありません。 お子さんの日々の生活習慣が大きく影響していることも多いのです。
原因1:遺伝的な要因(骨格や歯の大きさ)
親御さんの顔つきがお子さんに似るように、顎の骨格や歯の大きさ、形といった特徴は遺伝します。
例えば、顎の大きさに対して歯が大きすぎる場合は歯が並ぶスペースが足りずにガタガタになりますし、上下の顎の成長バランスが遺伝的にずれていると、出っ歯や受け口になりやすくなります。
原因2:日常の何気ない「癖」(指しゃぶり、口呼吸など)
お子さんが無意識に行っている癖が、歯並びに悪影響を与えているケースは非常に多く見られます。
特に注意したい癖をいくつかご紹介します。
| 癖の種類 | 歯並びへの影響 |
|---|---|
| 指しゃぶり | 3歳を過ぎても続くと、上の前歯が前に出たり(出っ歯)、上下の前歯が噛み合わなくなったり(開咬)する原因になります。 |
| 口呼吸 | 常に口が開いていると、唇が歯を押さえる力が弱まり、前歯が出やすくなります。 また、舌の位置が下がることで、顎の正常な発育が妨げられることもあります。 |
| 舌の癖 | 舌で前歯を無意識に押す癖(舌突出癖)があると、出っ歯や開咬の原因になります。 |
| 唇を噛む癖 | 下唇を噛む癖は出っ歯に、上唇を噛む癖は受け口につながることがあります。 |
| 頬杖 | 片方だけに力がかかり続けることで、顎の形が歪んだり、噛み合わせがずれたりする原因になります。 |
| 片側だけで噛む | 左右の顎の成長バランスが崩れ、顔の歪みに繋がることがあります。 |
これらの癖は、歯や顎に継続的に不自然な力を加えてしまうため、注意が必要です。
原因3:虫歯の放置や早期の乳歯喪失
「乳歯はいずれ抜けるから、虫歯になっても大丈夫」と考えてはいけません。
虫歯が大きくなって歯が崩れたり、予定より早く抜けてしまったりすると、その隙間に隣の歯が倒れ込んできます。
すると、後から生えてくる永久歯のスペースがなくなり、歯並びが乱れる直接的な原因となってしまうのです。
年齢別に見る矯正治療の2つのステージ「第一期治療」と「第二期治療」
子どもの矯正治療は、大きく分けて2つのステージがあります。
お子さんの成長段階に合わせて治療の目的や方法が異なるため、この違いを理解しておくことが大切です。
【第一期治療】土台作りが目的(6歳〜12歳頃)
第一期治療は、乳歯と永久歯が混在する「混合歯列期」に行う治療です。
歯を一本一本きれいに並べるというよりは、将来永久歯がきれいに並ぶための「土台作り」を目的としています。
目的:顎の成長を促し、バランスを整える
この時期の最大の目的は、お子さんの成長する力を利用して、顎の骨の大きさや上下のバランスを整えることです。
顎を広げてスペースを確保したり、出っ歯や受け口の原因となる骨格のズレを改善したりします。
治療内容:取り外し可能な装置が中心
治療には、主に取り外しのできる「床矯正装置(拡大床)」や、お口周りの筋肉を整える「マウスピース型装置(プレオルソなど)」、受け口を改善するための装置などが使われます。
お子さん自身で取り外しができるため、歯磨きがしやすく、虫歯のリスクを抑えられるというメリットがあります。
メリット:将来の抜歯リスクを減らせる
第一期治療でしっかりと土台作りをしておくことで、永久歯が生えるスペースが確保され、第二期治療に移行した際に健康な歯を抜かずに済む可能性が高まります。
また、骨格的な問題が改善されることで、第二期治療そのものが不要になるケースもあります。
【第二期治療】歯を直接動かす本格治療(12歳頃〜)
第二期治療は、すべての歯が永久歯に生えそろってから行う治療で、いわゆる皆さんがイメージする「本格的な矯正治療」です。
目的:永久歯をきれいに並べ、噛み合わせを完成させる
この段階では、歯を一本一本正しい位置に動かして、見た目にも機能的にも優れた、理想的な歯並びと噛み合わせを完成させることが目的です。
治療内容:ワイヤー矯正やマウスピース矯正など
治療には、歯の表面にブラケットという装置を付けてワイヤーで動かす「マルチブラケット装置」や、透明なマウスピースを交換していく「マウスピース型矯正(インビザラインなど)」が用いられます。
これは、大人の矯正治療とほぼ同じ方法です。
第一期治療からの移行で、治療期間の短縮も
第一期治療で顎の土台が整っている場合、第二期治療は歯の細かい位置調整だけで済むことが多く、治療期間が短くなったり、より良い治療結果が得られたりする可能性が高まります。
第一期治療と第二期治療は、それぞれ独立したものではなく、連携することでより効果的な治療を実現できるのです。
ご家庭でできる!我が子の歯並びチェックリスト
専門家でなくても、ご家庭でお子さんの歯並びのサインに気づくことは可能です。
年齢別にチェックしたいポイントをまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。 複数当てはまる場合は、一度歯科医院に相談してみることをお勧めします。
【3歳〜5歳頃】乳歯列期のチェックポイント
乳歯が生えそろうこの時期は、将来の歯並びを予測する上で大切なヒントが隠されています。
- 下の前歯が上の前歯より前に出ている(受け口)
- 乳歯が隙間なく、ぎっしり並んでいる(永久歯のスペース不足の可能性)
- 奥歯で噛んだときに、前歯が噛み合っていない(開咬)
- 指しゃぶりや舌を出す癖がなかなか抜けない
- 「サ行」や「タ行」が言いにくいなど、発音に気になる点がある
【6歳〜8歳頃】混合歯列期(前期)のチェックポイント
永久歯が生え始め、歯並びの問題が目に見えてきやすい時期です。
- 上の前歯が極端に前に出ている(出っ歯)
- 前歯が重なり合って、ガタガタに生えてきた
- 永久歯がなかなか生えてこない、または変な場所から生えてきた
- 噛み合わせが深く、下の前歯がほとんど見えない
- いつも口がポカンと開いている(口呼吸)
【9歳〜12歳頃】混合歯列期(後期)のチェックポイント
奥歯も永久歯に生え変わり、全体の噛み合わせが固まってくる時期です。
- 犬歯(糸切り歯)が外側から八重歯のように生えてきた
- 歯と歯の間に大きな隙間がある(すきっ歯)
- 顎が左右どちらかにずれているように見える
- 食べ物を噛みにくそうにしている
- 顔の左右のバランスが気になる
矯正相談から治療開始までの流れ
「歯医者さんに行ったら、すぐに治療が始まるの?」と不安に思う方もいらっしゃるでしょう。
実際には、しっかりとした検査と計画のもと、段階を踏んで治療に進みますのでご安心ください。
Step 1:初診相談(カウンセリング)
まずは、保護者の方のお悩みやご希望を詳しく伺います。
そして、お子さんのお口の中を拝見し、現在の歯並びの問題点や、考えられる治療法、おおよその期間や費用についてご説明します。
この段階で、不安なことは何でも質問してください。カウンセリングは無料で行っている医院も多いです。
Step 2:精密検査(レントゲン、歯型採りなど)
治療を進めることが決まったら、より詳しい検査を行います。
顎の骨の状態を見るためのレントゲン撮影、歯の模型を作るための歯型採り、お顔やお口の中の写真撮影などを行い、現状を正確に把握します。
これらの資料は、最適な治療計画を立てるために不可欠です。
Step 3:診断・治療計画の説明
精密検査の結果をもとに、歯科医師が診断を下し、具体的な治療計画を立案します。
どのような装置を使い、どのくらいの期間で、どのように歯並びを改善していくのか、費用は総額でいくらかかるのか、といった詳細な内容を丁寧にご説明します。
内容にご納得いただけたら、治療の契約となります。
Step 4:治療開始
治療計画に同意いただいたら、いよいよ治療のスタートです。
装置の型採りをしたり、実際に装置を装着したりします。
治療が始まったら、通常は1〜2ヶ月に一度のペースで通院し、装置の調整や歯の動きのチェックを行っていきます。
保護者の方が気になるQ&A
ここでは、保護者の方からよくいただくご質問にお答えします。
Q1. 矯正治療の費用はどのくらいかかりますか?
小児矯正の費用は、治療の段階や内容によって異なります。
一般的に、顎の成長をコントロールする第一期治療の費用相場は30万円〜50万円程度です。
その後、永久歯を整える第二期治療が必要な場合は、さらに30万円〜60万円程度がかかることが多くなります。
費用には、最初の検査・診断料や、毎回の調整料などが別途必要な場合と、すべて含まれている場合(トータルフィー制度)があります。
また、噛み合わせの改善など、機能的な目的の治療と診断されれば、医療費控除の対象となることがあります。 詳しくは治療を受ける歯科医院にご確認ください。
Q2. 治療期間はどのくらいですか?
治療期間も個人差が大きいですが、第一期治療は1年〜3年程度が目安です。
その後、永久歯が生えそろうまで経過を観察する期間が入ります。
第二期治療が必要な場合は、さらに1年半〜3年程度かかるのが一般的です。
治療後も、歯並びが元に戻る「後戻り」を防ぐための保定期間が必要です。
Q3. 治療は痛いのでしょうか?
矯正装置を初めてつけたり、調整したりした後の2〜3日は、歯が浮くような、あるいは締め付けられるような痛みを感じることがあります。
しかし、これは歯が動いている証拠であり、ほとんどの場合は数日で慣れていきます。
特に、成長を利用する第一期治療は、成人矯正に比べて痛みが少ないと言われています。 どうしても痛みが辛い場合は、痛み止めを服用することも可能です。
Q4. どの歯医者さんを選べば良いですか?
矯正治療は専門性の高い分野ですので、「矯正歯科」を標榜している歯科医院や、日本矯正歯科学会などの認定医・専門医が在籍している医院を選ぶと安心です。
また、お子さんが長く通うことになるため、先生やスタッフとの相性、通いやすさも重要なポイントです。
いくつかの医院でカウンセリングを受け、納得できる説明をしてくれる、信頼できる先生を見つけることをお勧めします。
まとめ:お子さんの健やかな未来のために、まずは気軽に相談を
お子さんの歯並びについて、いつから気にすべきか、そしてどのような選択肢があるのか、ご理解いただけましたでしょうか。
大切なのは、「気になったときが相談のタイミング」であり、特に「6歳〜8歳」という時期は、お子さんの将来の歯並びを健やかに導くための大きなチャンスだということです。
歯並びを整えることは、ただ見た目を美しくするだけではありません。
しっかりと噛めることで消化を助け、虫歯や歯周病のリスクを減らし、コンプレックスを解消して自信に満ちた笑顔をもたらします。 それは、お子さんの心と体の健やかな成長を支える、未来への大切な贈り物となるはずです。
「うちの子はどうかしら?」と少しでも思ったら、どうか一人で悩まず、お近くの歯科医院に足を運んでみてください。
専門家の視点からアドバイスをもらうことで、きっと不安が解消され、お子さんにとって最善の道筋が見えてくるはずです。