はじめまして。文京区で「坂本歯科クリニック」を営んでいる歯科医師の坂本祥子と申します。開業から20年以上、地域の患者さんの口腔ケアに向き合ってきましたが、「先生、ドラッグストアに行ったら歯磨き粉の種類が多すぎてどれを選べばよいか分からなくて……」というご相談は、今でも日々の診療の中で必ずと言っていいほど耳にします。
ペースト、ジェル、フッ素、研磨剤なし、ホワイトニング、薬用……パッケージを見渡すと、とにかく情報量が多い。そして価格もまちまちです。私自身も若い頃に矯正治療を経験し、長年「自分の口に本当に合ったケアを選ぶ」ことの難しさを実感してきました。だからこそ、今回は「成分表示の見方」から丁寧にひもといて、皆さんが自分に合った一本を選べるようになるお手伝いをしたいと思います。難しい専門用語はできる限りかみ砕いてお伝えしますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
まず確認!「医薬部外品」と「化粧品」の違い
ドラッグストアに並ぶ歯磨き粉には、大きく分けて「医薬部外品(薬用歯磨き)」と「化粧品(一般歯磨き)」の2種類があります。
この2つの違いは、ひとことで言えば「効果・効能をうたえるかどうか」です。化粧品の歯磨き粉は研磨剤などの基本成分だけでできており、「汚れを落とす」「爽快感を与える」といった目的で使われます。一方の医薬部外品は、厚生労働省が認可した「有効成分」が配合されており、「虫歯の発生・進行の予防」「歯槽膿漏の予防」「歯肉炎の予防」といった薬理的な効果を訴求できます。
「じゃあ医薬部外品さえ選べばいいのね」と思われるかもしれませんが、もう一歩だけ見てほしいポイントがあります。それが成分表示の読み方です。
パッケージのどこを見ればよいか
医薬部外品の歯磨き粉のチューブや外箱には、必ず「成分」または「有効成分」の欄が記載されています。
- 有効成分:薬理的な効果が認められた成分。フッ化ナトリウム、トラネキサム酸、IPMPなど。
- 添加物(基本成分):製品を安定させたり、使い心地を整えたりするための成分。研磨剤、発泡剤、湿潤剤など。
パッケージを手に取ったら、まず「有効成分」の欄を探し、その内容を自分のお口の悩みと照らし合わせる——これが、成分表示を正しく活用するための基本的な流れです。
成分表示の読み解き方——基本成分6つを知っておこう
有効成分の前に、まず「基本成分」について理解しておきましょう。基本成分は歯磨き粉を歯磨き粉たらしめるための土台となる成分群です。主に以下の6種類で構成されています。
| 基本成分の種類 | 主な成分名の例 | 役割 |
|---|---|---|
| 清掃剤(研磨剤) | 無水ケイ酸、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム | 歯面の汚れ・着色を物理的に落とす |
| 発泡剤 | ラウリル硫酸ナトリウム(SLS) | 泡立ちを生み出し、歯磨き粉を口中に広げる |
| 湿潤剤 | ソルビトール、グリセリン | 歯磨き粉に適切な湿り気と柔らかさを与える |
| 粘結剤 | アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース | 粉と液体を結合し、ペースト状の形状を保つ |
| 香味剤 | メントール、サッカリンナトリウム | 爽快感と香りをつける |
| 保存料 | 安息香酸ナトリウム、パラベン | 品質の劣化を防ぐ |
研磨剤について知っておきたいこと
「研磨剤が歯を削る」というイメージを持たれている方も多いかと思います。現在の歯磨き粉に配合されている研磨剤は国際規格の基準に従っており、適正な粒子サイズが用いられていますので、通常使用で歯が大きく削れることはまずありません。
ただし、強い力でゴシゴシ磨くブラッシングを続けると、研磨剤の有無にかかわらず歯のエナメル質や歯の根元(象牙質)がすり減ることがあります。また、歯根が露出している方や知覚過敏でお悩みの方、インプラントをお持ちの方には研磨剤不使用のジェルタイプをおすすめすることが多いです。
発泡剤(ラウリル硫酸ナトリウム)の注意点
発泡剤として広く使われているラウリル硫酸ナトリウム(SLS)は、過度に泡立つことで「磨けた感覚」だけが先行し、実際には磨き残しが生じやすくなることがあります。また、口内炎が繰り返しできる方には刺激になる可能性も指摘されています。低発泡タイプを選ぶと、じっくりと時間をかけて磨けるというメリットもあります。
いちばん重要な有効成分——フッ素(フッ化物)を正しく理解する
成分表示の中で、ほぼすべての方に関係する最重要キーワードがフッ素(フッ化物)です。
フッ素の3つの働き
フッ素は大きく3つの方向から歯を守ってくれます。
- 歯の表面のエナメル質を酸に溶けにくい強い結晶構造(フルオロアパタイト)に変えて歯質を強化する
- 脱灰(酸によって溶け始めた歯の表面のミネラルが失われること)が起きても、再石灰化を促して初期虫歯を修復に向かわせる
- 口内の虫歯菌の酵素を阻害し、酸の産生そのものを抑える
この3つの働きが相互に作用することで、虫歯予防に高い効果を発揮します。
フッ素濃度「ppm」の読み方
歯磨き粉のチューブや外箱を見ると、「フッ化ナトリウム(フッ素として○○ppm)」という表記があります。ppm(parts per million)とは100万分の1を表す単位で、1,000ppmは濃度0.1%にあたります。
厚生労働省の認可のもと、日本で市販されているフッ素配合歯磨き粉の上限は1,500ppmFです。実際に店頭で多く見かけるのは1,450ppmFと950ppmFの製品です。
1,000ppmF以上の製品には、チューブや外箱にフッ素濃度の数値が必ず記載される決まりになっています。「フッ素配合」とだけ書かれていて数値が見当たらない場合は、1,000ppm未満である可能性が高いので注意が必要です。
2023年に変わった!4学会合同の推奨基準
2023年1月、日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会の4つの学会が合同で「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」を発表し、年齢別の推奨フッ素濃度が改定されました。従来と比べてより高い濃度が推奨されるようになっています。
最新の推奨内容については、日本小児歯科学会の公式ページ「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法について」をご参照ください。
以下に、その概要をまとめます。
| 年齢 | 推奨フッ素濃度 | 1回の使用量の目安 | うがいの方法 |
|---|---|---|---|
| 歯が生えたて〜2歳 | 1,000ppmF | 米粒大(1〜2mm程度) | ごく少量の水で1回のみ |
| 3〜5歳 | 1,000ppmF | グリーンピース大(5mm程度) | 少量の水で1回のみ |
| 6歳以上(子ども〜大人) | 1,500ppmF(市販品は1,450ppm) | ブラシ全体にのばす程度 | 少量の水で1〜2回 |
6歳未満のお子さんへの高濃度(1,000ppm以上)フッ素歯磨き粉の使用は控えるよう、厚生労働省から通知が出ています。チューブに「6歳未満は使用しないこと」と書かれているのはそのためです。ご家族でひとつの歯磨き粉を共用されているご家庭は、特にご注意ください。
また、フッ素の効果を最大限に活かすには、磨き終わった後のうがいは「少量の水で1〜2回」にとどめることが重要です。大量の水で何度もすすぐと、せっかくのフッ素が流れ出てしまいます。磨き終えたらぺっと吐き出し、少量の水で軽く1回だけゆすぐ——これを習慣にすると効果が高まります。
悩みに合わせた成分選び
フッ素の基本を理解したうえで、次は自分のお口の悩みに応じた有効成分を選ぶステップです。
虫歯が心配な方へ
虫歯予防の最優先成分はもちろんフッ素です。成分表示に以下のいずれかが記載されていれば、フッ化物配合と判断できます。
- フッ化ナトリウム(NaF)
- モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)
- フッ化第一スズ
6歳以上の方であれば1,450ppmFを配合したものを選ぶのがベストです。虫歯になりやすい体質の方や矯正中の方は、フッ素が歯面に長くとどまる低発泡・低研磨のジェルタイプも有効です。
歯周病・歯肉炎が気になる方へ
歯周病予防には、殺菌成分と抗炎症成分の組み合わせが効果的です。
殺菌成分として注目したいのがIPMP(イソプロピルメチルフェノール)です。歯周病菌が歯の根元に作るバイオフィルム(菌の集合体)に浸透して殺菌できる特性を持ちます。加えてCPC(塩化セチルピリジニウム)は、バイオフィルムから出た菌に対して効果を発揮します。歯周病が気になる方は、この2つが配合された製品を選ぶとより安心です。
抗炎症成分としてはトラネキサム酸やβ(ベータ)-グリチルレチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム(GK2)などがあります。歯ぐきの腫れや出血を抑えるはたらきをします。また酢酸トコフェロール(ビタミンE)は歯ぐきの血行を促進し、組織の修復を助けます。
- IPMP……歯周病菌のバイオフィルムに浸透して殺菌する
- CPC……バイオフィルム外部の菌を殺菌する
- トラネキサム酸……歯ぐきの腫れ・出血を抑える(抗炎症)
- GK2(グリチルリチン酸ジカリウム)……歯ぐきの炎症を鎮める(抗炎症)
- 酢酸トコフェロール(ビタミンE)……歯ぐきの血行を改善し組織を修復する
歯周病ケアには、発泡剤や研磨剤を含まない低発泡のジェルタイプが向いています。泡立ちが少ないぶん薬用成分が歯ぐきにとどまりやすく、じっくり磨けるためです。
知覚過敏でお悩みの方へ
冷たいものを口にしたとき、あるいは歯ブラシが触れたときにキーンとする「知覚過敏」の症状。歯のエナメル質がすり減ったり、歯ぐきが下がったりして象牙細管(神経につながる細い管)が露出することで起こります。
知覚過敏に効く有効成分は主に2種類です。
- 硝酸カリウム(KNO3):歯の神経周囲のカリウム濃度を高め、神経が過剰に反応しにくくする。即効性が期待できる。
- 乳酸アルミニウム:象牙細管の開口部をふさいで刺激が神経に届くのをブロックする。持続性に優れる。
強い即効性を求めるなら硝酸カリウム配合、長期的に使い続けてじっくり改善を目指すなら乳酸アルミニウム配合、またはその両方が配合されたものを選ぶのもひとつの方法です。
歯の着色・ホワイトニングが気になる方へ
コーヒーやお茶、赤ワインなどによる着色汚れ(ステイン)が気になる方には、ステインを化学的に浮かせて落とす成分が配合されたものを選びましょう。
- ポリリン酸ナトリウム(TPP):ステインを歯面から浮き上がらせ、新たな着色の付着を防ぐ
- ポリエチレングリコール(PEG):ヤニや着色汚れを浮かせて除去する
注意していただきたいのは、「市販の歯磨き粉だけで歯本来の色より白くすること(ブリーチング効果)はできない」という点です。もともとの歯の色(歯の内側の色)を変えたい場合は、歯科医院でのオフィスホワイトニングや、歯科医師の指導のもとで行うホームホワイトニングが必要になります。
また、強い研磨剤でステインを「削り落とす」タイプのホワイトニング歯磨き粉には注意が必要です。見た目の白さは得られても、歯のエナメル質や象牙質を傷つけるリスクがあります。できれば化学的にステインを浮かせるタイプを選ぶほうが、歯に優しいケアと言えます。
タイプ(剤型)別の特徴と使い方
歯磨き粉の「形状」によっても、効果の出方や使用感が大きく変わります。
ペーストタイプは最も一般的な形状です。研磨剤が配合されているものが多く、汚れの除去効果が高い反面、発泡剤による泡立ちが多いため「磨けた感覚」だけで終わりにしてしまいやすいのが注意点です。
ジェルタイプは研磨剤・発泡剤を含まないものが多く、薬用成分が歯面や歯ぐきにとどまりやすいのが特徴です。歯周病ケア、知覚過敏ケア、インプラントをお持ちの方、矯正治療中の方に特に向いています。就寝前にジェルタイプを使ってごく少量の水でうがいするだけにとどめると、フッ素を口内に長時間残す「ナイトケア」としても有効です。
泡タイプ・液体タイプは使い心地が軽く、お子さんや高齢者の方に使いやすいものもありますが、有効成分の含有量は製品によって大きく異なります。購入前に成分表示を必ず確認してください。
歯磨き粉選びの落とし穴と過度に心配しなくていいこと
患者さんからよく聞くのが「ラウリル硫酸ナトリウムは体に悪いのでは?」「研磨剤で歯が溶ける?」といった不安の声です。
ラウリル硫酸ナトリウムは確かに過剰な泡立ちによる磨き残しのリスクや、口内炎が出やすい方への刺激性が指摘されていますが、適正な配合量であれば一般的な安全性は確認されています。ただ、気になる方は低発泡・SLSフリーの製品を選ぶという選択肢もあります。
研磨剤についても、現代の歯磨き粉に用いられているものは国際規格に沿った粒子サイズであり、適切な磨き方(過度な力をかけない)で使う分には歯を大きく損傷することはまずありません。歯を傷めやすいのは、研磨剤の有無よりも「歯ブラシを強く押し当てて横にゴシゴシ磨く」ブラッシング圧のほうが問題です。
「100点満点の歯磨き粉」を探し続けるよりも、「自分のお口の悩みに合った有効成分が入っており、毎日続けられるもの」を選ぶことのほうが、長い目で見た歯の健康につながります。
まとめ
この記事では、市販の歯磨き粉の選び方について、成分表示の見方を中心にお伝えしました。最後に要点を整理します。
- パッケージに「医薬部外品」と書かれた薬用タイプを選ぶ
- 「有効成分」の欄に何が入っているかを確認する
- フッ素(フッ化物)は虫歯予防の最重要成分。6歳以上の成人は1,450ppmFを選ぶ
- 磨き終わりは少量の水で1〜2回だけうがいし、フッ素を口内に残す
- 歯周病には殺菌成分(IPMP・CPC)と抗炎症成分(トラネキサム酸・GK2)を
- 知覚過敏には硝酸カリウムや乳酸アルミニウム配合のものを
- ホワイトニング目的なら研磨剤頼みでなく、ポリリン酸ナトリウムなどで化学的にステインを浮かせるタイプを
- 歯周病ケアや知覚過敏のある方にはジェルタイプが向いている
いくら良い歯磨き粉を選んでも、磨き残しがあればその効果は半減します。デンタルフロスや歯間ブラシを使った歯間ケア、そして定期的な歯科受診(プロフェッショナルクリーニング)を組み合わせることが、お口の健康を守る近道です。
私のクリニックでも患者さん一人ひとりのお口の状態を見ながら、歯磨き粉のご相談に応じています。「この歯磨き粉、私に合ってますか?」と気軽に聞いていただけると、とても嬉しいです。どうぞ、ご自身のお口に向き合う毎日の歯磨きを、今日から少しだけアップデートしてみてください。