「先生、矯正装置を外したら虫歯だらけになってしまうのでは?」
このような不安を抱えた患者さんとの対話が、私の診療室では日常茶飯事です。

私自身も重度の歯列不正に長年苦しみ、成人してから矯正治療を経験した一人として、皆さんの気持ちが痛いほどよくわかります。
美しい歯並びを手に入れたい一方で、治療中に虫歯ができてしまったら本末転倒ですよね。

確かに矯正治療中は、装置の存在により普段より虫歯のリスクが高まります。
しかし適切な予防策を実践すれば、虫歯ゼロで理想の歯並びを手に入れることは十分可能です。

この記事では、歯科医師として20年以上の経験と、自身の矯正体験を踏まえて、矯正治療中の虫歯予防に本当に効果的な5つのコツをお伝えします。
年齢を重ねてから矯正を始める方も多い昨今、30代から60代の皆さんに特に知っていただきたい実践的な内容です。

和菓子作りと同じように、美しいものを作り上げるには時間と丁寧なケアが欠かせません。
一緒に虫歯のない美しい口元を目指していきましょう。

矯正治療と虫歯の関係を正しく知る

矯正装置が引き起こす口内環境の変化

矯正治療を始めると、お口の中の環境は大きく変化します。
この変化を理解することが、効果的な虫歯予防の第一歩となります。

ワイヤー矯正の場合、歯の表面にブラケットという小さな装置が取り付けられ、そこにワイヤーが通されます。
このでこぼこした装置により、食べかすや歯垢が通常より溜まりやすくなるのです。

特に装置と歯の間、ワイヤーの下など、歯ブラシが届きにくい箇所が多数生まれます。
また、普段使用している歯間ブラシやフロスも、装置があることで使いにくくなってしまいます。

一方、マウスピース矯正も油断は禁物です。
「取り外せるから安心」と思われがちですが、実は意外な落とし穴があります。

マウスピースを装着している間は、唾液が歯に直接触れることができません。
唾液には口の中を洗浄し、酸を中和する重要な働きがありますが、これが阻害されてしまうのです。

虫歯リスクが高まる理由

矯正治療中に虫歯リスクが高まる理由は、主に以下の3つです。

清掃困難な環境の増加
装置により歯磨きが困難になり、磨き残しが増加します。
磨き残した歯垢は24時間以内に虫歯菌の温床となり、48時間後には歯石の原因となる硬い汚れに変化してしまいます。

唾液の流れの阻害
装置により唾液の自然な流れが妨げられ、口の中の自浄作用が十分に働きません。
特に就寝中は唾液分泌が減少するため、朝起きた時の口の中は虫歯菌にとって絶好の環境となります。

食事パターンの変化
矯正装置の違和感や痛みにより、少量ずつ頻繁に食事を取る方が増えます。
このだらだら食べは、口の中が酸性に傾く時間を長くし、虫歯リスクを大幅に上昇させます。

年齢別で異なる注意点(30代〜60代)

年代によって口の中の状況は大きく異なるため、それぞれに応じた対策が必要です。

30代の方は経済的にも時間的にも比較的余裕が出てくる時期で、矯正治療を始める方が増えています。
この年代は基本的な口腔ケア能力は高いものの、仕事のストレスや不規則な生活により、つい歯磨きがおろそかになりがちです。

40代以降になると、加齢により骨が硬化し、歯の動きが若干鈍くなる傾向があります。
そのため治療期間が長くなることがあり、その分虫歯予防の重要性も高まります。

また、この年代から歯周病のリスクが急激に上昇します。
矯正治療中に歯周病が悪化すると、歯を支える骨が減少し、矯正治療自体に支障をきたす可能性があります。

50代以降では、歯茎が下がりやすくなる「ブラックトライアングル」と呼ばれる現象に注意が必要です。
これは歯と歯の間に黒い三角形の隙間ができる現象で、矯正治療により目立つことがあります。

年齢を重ねるほど唾液の分泌量も減少するため、より積極的な虫歯予防対策が求められます。

コツ1:正しいブラッシング習慣を身につける

装置の種類に応じた磨き方

効果的な虫歯予防の基本は、何といっても正しい歯磨きです。
しかし、矯正装置があることで従来の磨き方では不十分になってしまいます。

ワイヤー矯正の場合の基本テクニック

  1. 45度の角度を意識する
    歯ブラシを歯とブラケットに対して45度の角度で当て、小刻みに動かします。
    一度に大きく動かすのではなく、歯2本分程度の幅で丁寧に磨いていきます。
  2. 上下3段階に分けて磨く
    ブラケットの上部分、ブラケット周辺、ブラケットの下部分の3段階に分けて磨きます。
    特にブラケットの下部分は汚れが溜まりやすいので、念入りに行いましょう。
  3. 縦磨きも取り入れる
    通常の横磨きに加えて、歯ブラシを縦に持ち、前歯の裏側や犬歯周辺を丁寧に磨きます。

マウスピース矯正の場合

マウスピースを外してから歯磨きを行うため、基本的には通常の方法で問題ありません。
ただし、マウスピース装着前には必ず歯磨きを行い、清潔な状態で装着することが重要です。

マウスピース自体の清掃も忘れずに行いましょう。
専用の洗浄剤を使用するか、やわらかい歯ブラシで優しく洗浄します。

磨き残しを防ぐ道具選び

矯正治療中は、通常の歯ブラシだけでは限界があります。
以下の補助用具を効果的に使い分けましょう。

必須アイテム一覧

道具名用途使用頻度
ワンタフトブラシブラケット周辺の細かい部分毎回
歯間ブラシ歯と歯の間、ワイヤーの下毎回
フロス歯間の汚れ除去1日1回以上
洗口剤全体的な除菌毎回

ワンタフトブラシの活用法
ワンタフトブラシは、1本の毛束が集まった特殊なブラシです。
ブラケットの周辺や、歯と歯茎の境目など、通常の歯ブラシでは届きにくい箇所の清掃に威力を発揮します。

使用する際は、軽い力で優しく磨くことがポイントです。
強く磨きすぎると歯茎を傷めてしまう可能性があります。

歯科衛生士に教わるプロのテクニック

私のクリニックでは、矯正治療を始める患者さん全員に、歯科衛生士による専門的なブラッシング指導を行っています。
その中で特に効果が高いと実感しているテクニックをご紹介します。

時間配分の目安

  • 全体のブラッシング:5分以上
  • ワンタフトブラシでの仕上げ:2分以上
  • フロスや歯間ブラシ:3分以上

合計10分以上かけて、丁寧に清掃することが理想的です。

効果的な順序

  1. まず全体を通常の歯ブラシで大まかに清掃
  2. ワンタフトブラシで細部を丁寧に
  3. 歯間ブラシやフロスで仕上げ
  4. 洗口剤で全体をすすぐ

この順序を守ることで、効率的かつ確実に汚れを除去できます。

患者さんからよく「そんなに時間をかけられない」というお声をいただきますが、虫歯治療にかかる時間と費用を考えれば、予防に投資する時間は決して無駄ではありません。

コツ2:フッ素を上手に活用する

フッ素配合歯磨き剤の選び方

フッ素は矯正治療中の虫歯予防において、最も重要な味方の一つです。
正しく選択し、適切に使用することで、虫歯のリスクを大幅に下げることができます。

推奨フッ素濃度
2023年の基準改定により、6歳以上の方には1450ppmのフッ素配合歯磨き剤が推奨されています。
市販の歯磨き剤の中で「高濃度フッ素配合」と記載されているものは、すべて1450ppmです。

矯正治療中は特に虫歯リスクが高いため、可能な限り高濃度のフッ素を選択しましょう。

成分表示の確認ポイント

  • フッ化ナトリウム
  • モノフルオロリン酸ナトリウム
  • フッ化第一スズ

これらの成分が明記され、濃度が1450ppmと表示されているものを選びます。
濃度の表示がない場合は、1000ppm未満の可能性が高いので避けた方が良いでしょう。

年代別の選び方
30代〜40代の方は、虫歯予防に加えて歯周病予防効果のある成分(IPMP、LSSなど)が配合されたものがおすすめです。

50代以降の方は、知覚過敏対策も兼ねた処方のものを選ぶと良いでしょう。
歯茎が下がりがちなこの年代では、根面の露出により知覚過敏が起こりやすくなります。

洗口剤・ジェルの効果的な使い方

歯磨き剤だけでなく、フッ素配合の洗口剤やジェルを併用することで、さらに高い予防効果が期待できます。

フッ素洗口剤の活用法
就寝前の使用が最も効果的です。
夜間は唾液の分泌が減少するため、フッ素がより長時間歯に作用します。

使用方法:

  1. 通常の歯磨きを完了させる
  2. 適量の洗口剤で30秒間うがい
  3. 軽く吐き出す(完全にすすがない)
  4. その後1時間は飲食を控える

フッ素ジェルの使い方
歯磨き後の仕上げとして使用します。
特に矯正装置周辺の清掃困難な部分に、指やワンタフトブラシで直接塗布する方法が効果的です。

970ppmのフッ化第一スズ配合のジェルを使用し、塗布後は軽く吐き出すだけにとどめます。

フッ素塗布はどれくらい必要?

歯科医院でのプロフェッショナルなフッ素塗布も、矯正治療中の虫歯予防に有効です。

推奨頻度

  • 通常の方:6ヶ月に1回
  • 矯正治療中の方:3〜4ヶ月に1回
  • 虫歯リスクの高い方:1〜2ヶ月に1回

フッ素塗布の特徴
歯科医院で使用するフッ素は、家庭用よりもはるかに高濃度(9000ppm程度)です。
そのため、より強力な虫歯予防効果が期待できます。

塗布後は30分間飲食を控え、フッ素を歯に定着させることが重要です。

効果を最大化するコツ
フッ素は口の中に長く留めることで効果が高まります。
そのため、以下の点を心がけましょう。

  • 歯磨き後のうがいは最小限に(5〜15mlの少量の水で1回のみ)
  • フッ素使用後1〜2時間は飲食を控える
  • キシリトール100%のガムも、フッ素使用後は控える

私の患者さんの中には、「フッ素を使うようになってから、明らかに虫歯ができにくくなった」とおっしゃる方が数多くいらっしゃいます。
正しい使い方をマスターして、ぜひその効果を実感してください。

コツ3:間食・飲み物のとり方を工夫する

砂糖との上手な付き合い方

矯正治療中だからといって、好きなものを一切我慢する必要はありません。
大切なのは、砂糖と上手に付き合う方法を知ることです。

砂糖が虫歯を引き起こすメカニズム
砂糖を摂取すると、口の中の虫歯菌がそれをエサにして酸を産生します。
この酸により口の中のpHが下がり、歯のエナメル質からミネラルが溶け出す「脱灰」という現象が起こります。

通常であれば、唾液の働きにより30〜40分で中性に戻りますが、頻繁に糖分を摂取すると、この回復が追いつかなくなってしまいます。

時間管理が鍵
同じ量の砂糖を摂取するにしても、摂取の仕方で虫歯リスクは大きく変わります。

危険な摂取パターン

  • 長時間かけてアメを舐める
  • ジュースをちびちび飲む
  • デスクワーク中に糖分の多いお菓子をつまむ

安全な摂取パターン

  • 決まった時間に集中して摂取
  • 食後のデザートとして楽しむ
  • 摂取後は速やかに歯磨きまたは口をすすぐ

虫歯リスクを高めない食習慣

矯正治療中に特に注意したい食習慣について、具体的にご説明します。

食事のタイミング
規則正しい食事時間を心がけ、だらだら食べを避けることが最も重要です。
理想的な食事パターンは以下の通りです。

  • 朝食:7:00〜8:00
  • 昼食:12:00〜13:00
  • 夕食:18:00〜19:00
  • 間食:15:00頃(1回のみ)

飲み物の選び方
普段何気なく飲んでいる飲み物にも、注意が必要です。

飲み物虫歯リスク対策
水・お茶そのまま飲用可能
コーヒー(無糖)低〜中着色に注意
炭酸飲料極力避ける
スポーツドリンク運動時のみに限定
果汁100%ジュース中〜高食事時のみ

マウスピース矯正での注意点
マウスピース矯正の方は、装着中は水以外の飲み物は摂取できません。
コーヒーや紅茶を飲む際は、一度マウスピースを外し、飲用後に歯磨きを行ってから再装着します。

おすすめの「歯にやさしい」間食とは

矯正治療中でも安心して楽しめる間食をご紹介します。

虫歯リスクの低い間食

  1. チーズ
    カルシウムとリンが豊富で、歯の再石灰化を促進します。
    また、口の中のpHを中和する効果もあります。
  2. ナッツ類
    無塩のアーモンドやクルミは、歯に良い栄養素が豊富です。
    ただし、矯正装置を傷つけないよう、細かく砕いてから食べましょう。
  3. 野菜スティック
    キュウリやセロリなどの繊維質の多い野菜は、噛むことで唾液分泌を促進します。
  4. 無糖ヨーグルト
    乳酸菌は口腔内の善玉菌を増やし、虫歯菌の増殖を抑制します。

キシリトール製品の活用
キシリトール100%のガムやタブレットは、虫歯菌のエサにならないどころか、虫歯菌の活動を抑制する効果があります。

ただし、フッ素使用後は効果を妨げる可能性があるため、タイミングに注意が必要です。

私の患者さんの成功例
40代の女性患者さんは、間食を完全にやめるのではなく、「3時のおやつ」の時間を厳格に決め、その後必ず歯磨きをするルールを作りました。
この方法で2年間の矯正期間中、虫歯ゼロを達成されました。

「我慢するより、ルールを決めた方が続けやすい」というお話が印象的でした。

和菓子作りと同じように、甘いものも適切な時間と方法で楽しめば、決して敵ではありません。
上手にコントロールして、矯正治療中も豊かな食生活を送ってください。

コツ4:定期的なプロフェッショナルケアを受ける

クリニックでのクリーニングの重要性

矯正治療中のプロフェッショナルケアは、虫歯予防において欠くことのできない要素です。
どんなに丁寧にセルフケアを行っても、完璧に汚れを除去することは困難だからです。

セルフケアの限界
最も歯磨きが上手な方でも、除去できる歯垢は全体の約90%と言われています。
残りの10%は、どうしても専門的なケアが必要になります。

矯正装置がある場合、この割合はさらに下がってしまいます。
装置の隙間や歯茎の境目など、家庭でのケアでは手の届かない部分が多数存在するためです。

プロフェッショナルクリーニングの内容
歯科医院で行われるクリーニングは、以下のような内容で構成されます。

  1. 口腔内検査
    虫歯や歯周病の初期症状をチェックします。
    矯正装置により見えにくくなっている部分も、専門的な器具を使って詳しく調べます。
  2. 歯石除去(スケーリング)
    超音波振動を利用した専用器具で、頑固な歯石を除去します。
    矯正装置周辺の細かい部分も、熟練した歯科衛生士が丁寧に清掃します。
  3. PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)
    専門的な器具を使用して、歯の表面を磨き上げます。
    これにより、新たな汚れの付着を防ぎ、つるつるとした清潔な歯面を維持できます。
  4. フッ素塗布
    高濃度のフッ素を塗布し、歯質を強化します。

矯正装置への配慮
矯正治療中のクリーニングでは、装置を傷つけないよう特別な注意が払われます。
経験豊富な歯科衛生士が、装置の種類や状態に応じて最適な方法を選択します。

見逃されがちな初期虫歯を早期発見

矯正治療中は、装置により虫歯の発見が困難になることがあります。
だからこそ、プロの目による定期的なチェックが不可欠です。

装置による見落としリスク
ブラケットやワイヤーにより、歯の一部が見えにくくなります。
特に以下のような箇所は、虫歯が進行してから発見されるケースが多いのです。

  • ブラケットの下の歯面
  • ワイヤーに隠れた歯間部
  • 歯と歯茎の境目

早期発見のメリット
初期段階(C0〜C1)で虫歯を発見できれば、削らずに済む場合があります。
フッ素塗布やセルフケアの改善だけで、自然治癒に導くことも可能です。

一方、発見が遅れて進行してしまった場合、矯正装置を一時的に外して治療を行う必要があります。
これにより治療期間が延長し、費用も増加してしまいます。

推奨検査頻度

矯正装置の種類推奨頻度理由
ワイヤー矯正1ヶ月に1回装置調整時に併せて
マウスピース矯正2ヶ月に1回比較的清掃しやすい
虫歯リスク高い方1ヶ月に1回より厳重な管理が必要

担当歯科医とのコミュニケーションの工夫

効果的なプロフェッショナルケアを受けるためには、歯科医師や歯科衛生士との良好なコミュニケーションが重要です。

事前準備のポイント
クリニックを訪れる前に、以下の点を整理しておきましょう。

  • 前回の来院後に気になった症状
  • セルフケアで困っている点
  • 食生活の変化
  • 痛みや違和感の有無

効果的な相談方法
「なんとなく気になる」といった曖昧な表現ではなく、具体的に伝えることが大切です。

例:
❌「歯磨きが上手くいかない」
⭕「ブラケットの下の部分に食べかすが挟まりやすく、ワンタフトブラシでも取り切れない」

セカンドオピニオンの活用
矯正治療を行っている歯科医院以外でも、クリーニングを受けることは可能です。
ただし、装置の調整が必要な場合は、矯正担当医院での施術が安全です。

マウスピース矯正の方は、どの歯科医院でもクリーニングを受けられるため、アクセスの良い医院を選択肢に加えることもできます。

費用について
矯正治療の一環としてクリーニングが含まれる場合、費用は3,000円程度が目安です。
別途費用が発生する場合は、5,000円〜20,000円程度となります。

治療開始前に、クリーニングの費用体系について確認しておくことをおすすめします。

私の経験では、定期的なプロフェッショナルケアを受けている患者さんの方が、矯正治療の結果に満足される傾向があります。
美しい歯並びと健康な歯の両方を手に入れるために、ぜひ活用してください。

コツ5:日々のセルフチェックを怠らない

鏡を使った観察ポイント

毎日の歯磨きの際に行う簡単なセルフチェックが、深刻な問題を未然に防ぐ重要な役割を果たします。
忙しい日々の中でも続けられる、効果的な観察方法をお教えします。

基本的な観察姿勢
明るい照明の下で、手鏡を使って口の中をしっかり観察します。
洗面台の照明だけでは不十分な場合が多いので、デスクライトなどを併用すると良いでしょう。

歯の色の変化をチェック
虫歯の初期段階では、歯の表面に白っぽい斑点や茶色の変色が現れます。
特に以下の部分は注意深く観察してください。

  1. ブラケット周辺
    装置の縁に沿って白い線や点が現れていないか確認します。
    これは初期虫歯(ホワイトスポット)の典型的な症状です。
  2. 歯と歯茎の境目
    歯茎に近い部分は汚れが溜まりやすく、虫歯が発生しやすい箇所です。
    普段より白っぽくなっていたり、小さな穴が開いていないかチェックします。
  3. 歯間部
    歯と歯の間に黒っぽい影や変色がないか確認します。
    特に奥歯の間は見落としやすいので、角度を変えて入念に観察しましょう。

歯茎の状態も重要
虫歯だけでなく、歯周病の早期発見も大切です。

健康な歯茎の特徴:

  • 淡いピンク色
  • 弾力がある
  • 歯磨き時に出血しない

注意が必要な状態:

  • 赤く腫れている
  • ブラッシング時に出血する
  • 触ると柔らかい、プヨプヨした感触

口内環境の変化に気づくためのヒント

矯正治療中は口の中の環境が日々変化するため、微細な変化にも敏感になることが大切です。

味覚の変化に注目
口の中に異常が起きると、味覚に変化が現れることがあります。

  • いつもより口の中が酸っぱく感じる
  • 金属味がする
  • 食べ物の味が変わった気がする

これらの症状は、虫歯や歯周病の初期サインかもしれません。

唾液の状態をチェック
唾液は口の健康状態を映し出す鏡のような存在です。

正常な唾液:

  • 透明でサラサラしている
  • 適度な量が分泌される
  • 嫌な臭いがしない

注意が必要な状態:

  • 粘性が高くネバネバしている
  • 量が少なくて口が乾く
  • 血が混じっている

口臭の変化
自分の口臭は気づきにくいものですが、以下の方法で客観的にチェックできます。

  1. 起床時のチェック
    朝起きたときの口臭は、口の中の状態を知る重要な指標です。
    通常より強い口臭を感じた場合は、細菌の増殖が疑われます。
  2. マスクを利用した方法
    マスクを着用して、自分の息の臭いを確認します。
    普段より不快な臭いを感じる場合は注意が必要です。

気になる症状が出たときの対応法

セルフチェックで異常を発見した場合の、適切な対応方法をご説明します。

症状別の緊急度判定

症状緊急度対応
白い斑点の出現2週間以内に受診
茶色の変色1週間以内に受診
痛みを伴う変色3日以内に受診
歯茎の腫れ・出血1週間以内に受診
激しい痛み即日受診

応急処置の方法
受診までの間に行える、安全な応急処置をご紹介します。

  1. 痛みがある場合
  • 市販の鎮痛剤を用法・用量を守って服用
  • 冷たい水でうがいをする
  • 患部を清潔に保つ
  1. 歯茎から出血している場合
  • やわらかい歯ブラシで優しく清掃
  • 殺菌効果のある洗口剤を使用
  • 強くうがいをしすぎない
  1. 装置に問題がある場合
  • 無理に直そうとしない
  • 矯正担当医に連絡を取る
  • 応急的にワックスで覆う

記録をつける習慣
症状の変化を記録しておくと、受診時に正確な情報を伝えられます。

記録項目:

  • 発見日時
  • 症状の場所
  • 痛みの程度(10段階評価)
  • 症状の変化
  • 行った対処法

家族の協力も活用
自分では見えにくい奥歯や歯の裏側は、家族に見てもらうのも有効です。
スマートフォンのライト機能を使って、写真を撮ってもらうのも良い方法です。

毎日のセルフチェックは、最初は面倒に感じるかもしれません。
しかし、習慣化してしまえば1〜2分程度で完了し、大きな安心感を得ることができます。

私の患者さんの中には、「毎日のチェックのおかげで、小さな変化にすぐ気づけるようになった」とおっしゃる方が多くいらっしゃいます。
自分の口の中の専門家になったつもりで、ぜひ続けてみてください。

まとめ

5つのコツを実践して虫歯ゼロの矯正生活へ

ここまで、矯正治療中の虫歯予防について、5つの重要なコツをお伝えしてきました。
改めて整理してみましょう。

虫歯ゼロを実現する5つのコツ

  1. 正しいブラッシング習慣:装置に応じた専用テクニックと補助用具の活用
  2. フッ素の上手な活用:1450ppm配合歯磨き剤と効果的な使用法
  3. 食事・間食の工夫:時間管理と歯にやさしい食品選択
  4. プロフェッショナルケア:定期的なクリーニングと早期発見
  5. 日々のセルフチェック:変化への気づきと適切な対応

これらのコツは、単独で実施するよりも、組み合わせて実践することで飛躍的に効果が高まります。
まるで和菓子作りの工程のように、それぞれが大切な役割を果たし、美しい結果を生み出すのです。

自身の経験を踏まえたアドバイスのまとめ

私自身が矯正治療を受けた当時は、今ほど予防法が確立されていませんでした。
治療中に小さな虫歯ができてしまい、装置を一時的に外して治療を受けた経験があります。

その時の悔しさと反省が、現在の診療方針の礎となっています。
患者さんには同じ思いをしてほしくないという気持ちから、予防を重視した治療を心がけています。

年代別のアドバイス

30代の皆さんへ
経済的・時間的余裕のあるこの時期は、矯正治療の絶好のタイミングです。
仕事が忙しくても、効率的な予防法を身につけることで、確実に虫歯を防げます。

40代以降の皆さんへ
「今さら遅いのでは?」という心配は無用です。
人生100年時代、この先の長い人生を美しく健康な歯で過ごすための投資と考えてください。
年齢に応じた注意点を理解し、より丁寧なケアを心がけることで、素晴らしい結果を得られます。

全世代共通のメッセージ
矯正治療は、見た目の改善だけでなく、将来の口腔健康の基盤を作る重要な治療です。
治療中の虫歯予防は、決して難しいことではありません。
正しい知識と継続的な実践があれば、必ず成功できます。

不安を手放し、前向きに治療と向き合うために

矯正治療を検討している方、すでに治療を始めている方の中には、さまざまな不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。

「本当に虫歯にならないだろうか?」
「痛みに耐えられるだろうか?」
「期間中の生活に支障はないだろうか?」

これらの不安は、正しい知識と適切な準備によって、大幅に軽減できます。

不安を安心に変える3つのステップ

  1. 正確な情報を得る
    根拠のない憶測ではなく、科学的に証明された予防法を学びましょう。
  2. 信頼できる医療チームを見つける
    疑問や不安を気軽に相談できる、歯科医師・歯科衛生士との関係を築きましょう。
  3. 小さな成功を積み重ねる
    毎日の適切なケアが虫歯を防いでいることを実感し、自信を育てましょう。

最後に
私の診療室では、矯正治療を終えた患者さんから「治療中に虫歯ができなくて本当に良かった」という声を数多くいただきます。
中には「この2年間で、今までで一番口の中がきれいになった」とおっしゃる方もいます。

矯正治療は、歯並びを美しくするだけでなく、正しい口腔ケア習慣を身につける絶好の機会でもあります。
治療が終わった後も、その習慣は一生の財産となるでしょう。

新潟の雪景色のように純白で美しい歯、そして健康な口元を手に入れるために、一緒に頑張っていきましょう。
きっと、治療を始めて良かったと心から思える日が来るはずです。

ご質問やご相談がございましたら、いつでもお気軽にお声がけください。
皆さんの矯正治療が成功し、素敵な笑顔を手に入れられることを心から願っています。