「歯の治療が必要だけれど、費用がいくらかかるか心配…」
「保険と自費、どちらを選べばいいのか分からない」。
そんな不安を抱えていらっしゃる方は、決して少なくありません。
こんにちは、歯科医師の坂本祥子です。
私自身も歯のことで長く悩んだ経験があるからこそ、患者さんの気持ちがよく分かります。
この記事では、20年以上の臨床経験をもとに、「保険診療」と「自費診療」の基本的な違いから、それぞれのメリット・デメリット、そして具体的な治療費の目安まで、専門用語をできるだけ使わずに分かりやすく解説します。
この記事を読み終える頃には、ご自身の価値観に合った最適な治療法を選ぶための、しっかりとした知識が身についているはずです。
安心して、一緒に学んでいきましょう。
目次
そもそも、なぜ歯の治療には「保険」と「自費」があるの?
日本の歯科治療には、大きく分けて「保険診療」と「自費診療」の2つの選択肢があります。
なぜ、このように分かれているのでしょうか。
それは、それぞれの目的が異なるからです。
保険診療:「健康を守る」ための基本的な治療
保険診療は、国民皆保険制度に基づき、誰もが安心して医療を受けられるようにするためのものです。
その目的は、虫歯や歯周病といった「病気を治し、噛む機能を取り戻す」という、健康を維持するための最低限の機能回復にあります。
そのため、治療方法や使用できる材料には国が定めたルールがあり、全国どこの歯科医院で治療を受けても、同じ費用で一定水準の治療が受けられるというメリットがあります。
ただし、あくまで基本的な治療が前提となるため、見た目の美しさや、より長持ちさせたいといったご要望に、完全にはお応えできない場合があることも事実です。
自費診療:「より快適で美しい口元」を目指すための治療
一方、自費診療は、保険のルールに縛られず、患者さん一人ひとりのご要望に合わせた、より質の高い治療を提供するための選択肢です。
機能回復はもちろんのこと、
- 見た目の美しさ(審美性)
- より長持ちさせる(耐久性)
- 将来の虫歯を防ぐ(予防)
といった、プラスアルファの価値を求める場合に選ばれます。
最新の材料や技術を自由に選択できるため、まるで天然の歯のような自然な見た目を再現したり、より精密な治療で虫歯の再発リスクを抑えたりすることが可能です。
【一覧比較】保険診療と自費診療、あなたにとってのメリット・デメリット
保険診療と自費診療、それぞれの特徴が分かったところで、メリットとデメリットを比較してみましょう。
ご自身の希望と照らし合わせながら、どちらが合っているか考えてみてください。
比較項目 | 保険診療 | 自費診療 |
---|---|---|
費用 | ◎ 負担が少ない(原則3割) | △ 全額自己負担 |
見た目 | △ 材料に制限あり(銀歯など) | ◎ 自然で美しい仕上がり |
耐久性 | △ 経年劣化しやすい | ◎ 長持ちし、変色しにくい |
精度 | ○ 一定水準 | ◎ 精密な治療で再発リスクが低い |
選択肢 | △ 国のルールに基づく | ◎ 最新・最善の治療法を選べる |
将来性 | △ 再治療の可能性 | ◎ 長期的に見て健康を維持しやすい |
費用面での比較
最も大きな違いは、やはり費用です。
保険診療は、治療費の原則3割(年齢や所得によって異なります)を負担するだけで済むため、経済的な負担を大きく抑えることができます。
一方、自費診療は全額自己負担となるため、どうしても高額になります。
見た目(審美性)の比較
奥歯の治療でよく使われる「銀歯」を想像していただくと分かりやすいかもしれません。
保険診療では、どうしても金属の色が目立ってしまいます。
その点、自費診療で使われるセラミックなどの材料は、天然の歯と見分けがつかないほど自然な色と透明感を再現できます。
口を開けたときの見た目が気になる方にとっては、大きなメリットと言えるでしょう。
耐久性と精度の比較
「治療した歯が、また虫歯になってしまった」という経験はありませんか?
実は、これも保険と自費で差が出やすいポイントです。
自費診療で使われるセラミックなどの材料は、表面が滑らかで汚れがつきにくく、劣化しにくいという特徴があります。
また、歯との適合性も非常に高いため、隙間から細菌が侵入しにくく、虫歯の再発リスクを低く抑えることができます。
一方、保険の金属は、経年劣化によって変形したり、歯との間にわずかな隙間が生まれたりすることがあり、そこから二次的な虫歯につながるケースも少なくありません。
治療の選択肢と将来性の比較
保険診療では、国が定めた材料や治療法しか選ぶことができません。
しかし、歯科医療は日々進歩しており、より体に優しく、より長持ちする新しい選択肢が次々と生まれています。
自費診療では、そうした最新・最善の治療法を自由に選ぶことができます。
短期的に見れば費用はかかりますが、再治療の回数が減ることで、結果的にご自身の歯を長く健康に保つことにつながります。
これは、将来の心身や費用への負担を軽くするという、長期的な視点での大きなメリットと言えるでしょう。
【具体例で解説】治療法ごとの費用と内容の違い
では、実際の治療では、費用や内容にどのような違いがあるのでしょうか。
代表的な治療例を3つ挙げて、具体的に見ていきましょう。
1. 小さな虫歯の「詰め物(インレー)」
虫歯を削った部分を補う、比較的小さな詰め物です。
- 保険診療:銀歯やプラスチック(コンポジットレジン)
- 費用目安:3割負担で数千円程度
- 特徴:費用を抑えられますが、銀歯は見た目が目立ち、プラスチックは強度や耐久性の面で限界があります。
- 自費診療:セラミックインレーなど
- 費用目安:数万円~
- 特徴:天然歯のような美しい見た目で、汚れがつきにくく、虫歯の再発リスクも低いのが魅力です。
2. 大きな虫歯の「被せ物(クラウン)」
虫歯が大きく、歯を全体的に覆う必要がある場合の被せ物です。
- 保険診療:銀歯や、前歯に使われるプラスチックを貼り付けた金属
- 費用目安:3割負担で1万円前後
- 特徴:前歯でも、裏側は金属が見えてしまいます。また、プラスチック部分は時間とともに変色したり、強度の面で割れやすかったりするデメリットがあります。金属アレルギーのリスクも考慮が必要です。
- 自費診療:オールセラミッククラウンなど
- 費用目安:10万円前後~
- 特徴:すべてセラミックでできているため、天然歯のような透明感と美しさを実現できます。耐久性にも優れ、体にも優しい材料です。
3. 歯を失った場合の治療法
残念ながら歯を失ってしまった場合の治療法にも、選択肢があります。
- 保険診療:ブリッジや部分入れ歯
- 費用目安:治療法によりますが、数万円程度から
- 特徴:ブリッジは、失った歯の両隣の健康な歯を削る必要があります。入れ歯は、取り外しの手間や、違和感がある場合があります。
- 自費診療:インプラントや高性能な入れ歯
- 費用目安:数十万円~
- 特徴:インプラントは、顎の骨に人工の歯根を埋め込むため、まるで自分の歯のようにしっかりと噛むことができます。周囲の歯に負担をかけないのも大きなメリットです。高性能な入れ歯は、見た目が自然で、装着感も優れています。
歯科医師が自費診療をおすすめすることがある本当の理由
「歯医者さんに行くと、よく自費診療を勧められる…」
そう感じたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、最終的にどの治療法を選ぶかは、患者さんご自身の自由です。
ではなぜ、私たち歯科医師が自費診療という選択肢を提示することがあるのでしょうか。
それには、ちゃんとした理由があるのです。
理由1:より長持ちし、再治療のリスクを減らしたいから
これは、私が20年以上の臨床経験で、痛感していることです。
保険の詰め物や被せ物が数年でダメになり、再治療を繰り返すうちに、だんだんとご自身の歯が削られて小さくなり、最終的には歯を失ってしまう…。
そんな患者さんを、これまで何人も見てきました。
精密で劣化しにくい自費診療は、歯の寿命を延ばすための「予防投資」であると、私たちは考えています。
一度きりの治療で、できるだけ長く健康な状態を保っていただきたい。それが、私たちの切なる願いです。
理由2:より質の高い材料と技術で、最善を尽くしたいから
自費診療が高額になるのには、理由があります。
高品質な材料費、歯科技工士への製作依頼料、そして私たち歯科医師が高度な技術を習得するために費やした時間や、最新の設備への投資などが含まれているからです。
それは決して、「儲けたいから」ではありません。
一人の歯科医師として、患者さんに対して、今できる最善の治療を届けたい。その誠実な思いの表れなのです。
理由3:見た目の美しさが、患者さんの自信につながるから
口元のコンプレックスが解消されることで、思いきり笑えるようになったり、人との会話がもっと楽しくなったり。
歯の治療をきっかけに、患者さんの表情が明るくなり、自信を取り戻していく姿を、私は何度も目にしてきました。
歯の治療は、ただ虫歯を治すだけではありません。
患者さんの心と体の健康、そして、その先の人生を豊かにすることにもつながっている。
私はそう信じています。
賢い選択のために知っておきたい、治療費を抑えるための制度
「自費診療にも興味があるけれど、やっぱり費用が…」
そう思われる方も多いでしょう。
しかし、諦める前に、ぜひ知っておいていただきたい制度があります。
賢く利用することで、費用負担を軽減できるかもしれません。
医療費控除:年間の医療費が10万円を超えたら
これは、ご自身やご家族のために支払った年間の医療費が10万円(※)を超えた場合に、納めた税金の一部が戻ってくる制度です。
(※総所得金額等が200万円未満の方は、総所得金額等の5%)
ポイント
- 自費診療も対象:インプラントやセラミック治療なども対象になります。
- 家族の分も合算OK:生計を同一にするご家族の医療費を合算できます。
- 交通費も対象に:通院にかかった公共交通機関の交通費も含まれます。
確定申告が必要になりますが、ぜひ活用したい制度です。
高額療養費制度:保険診療の自己負担を抑える
こちらは、保険診療の自己負担額が、1ヶ月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額が払い戻される制度です。
上限額は、年齢や所得によって定められています。
注意点
- インプラントやセラミック治療などの自費診療は対象外です。
- 入院時の食費や差額ベッド代なども対象外となります。
ご自身が加入している公的医療保険(健康保険組合や国民健康保険など)に申請することで、払い戻しを受けることができます。
デンタルローンや分割払い
歯科医院によっては、信販会社と提携した「デンタルローン」や、独自の分割払いに対応している場合があります。
治療を受けたいけれど、一度にまとまった費用を準備するのが難しいという方は、治療を始める前に、支払い方法について歯科医院に相談してみることをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
最後に、患者さんからよくいただく質問にお答えします。
Q: 保険の銀歯は体に悪いって本当ですか?
A: 金属アレルギーのリスクはゼロではありませんが、すぐに体に害を及ぼすわけではありません。
しかし、唾液によって金属イオンが溶け出して歯茎が黒ずんでしまったり(メタルタトゥー)、長年の使用でアレルギーを発症してしまったりする可能性は否定できません。
アレルギーが心配な方や、体に優しい材料を希望される方には、セラミックなどのメタルフリー(金属を使わない)治療という選択肢もあります。
Q: 一度自費治療を選ぶと、その歯はずっと自費になりますか?
A: そんなことはありません。
例えば、自費の被せ物が何らかの理由で作り直しになった場合でも、再度、保険の被せ物に戻すことは可能です。
治療の都度、ご自身の状況に合わせて、歯科医師と相談しながら最適な方法を決めていきましょう。
Q: 見積もりをもらってから、検討して断っても大丈夫ですか?
A: もちろんです。
治療は、ご自身が心から納得してから進めることが、何よりも大切です。
複数の選択肢について説明を受け、一度家に持ち帰ってじっくり考えるのは、患者さんの当然の権利です。
遠慮なく、その旨をお申し出ください。私たちも、そのお気持ちを尊重します。
Q: 保険で白い歯にすることはできますか?
A: はい、条件によっては可能です。
例えば、前歯の被せ物(硬質レジン前装冠)や、比較的小さな虫歯を詰めるプラスチック(コンポジットレジン)など、保険適用で白くできる治療もあります。
ただし、奥歯の被せ物には適用できなかったり、時間が経つと変色しやすかったりといった制限もありますので、適用範囲やメリット・デメリットについては、歯科医師に詳しく確認することをお勧めします。
Q: なぜ歯医者によって自費治療の値段が違うのですか?
A: 自費診療は、各歯科医院が自由に価格を設定できるためです。
価格の違いは、主に以下の要素が反映されています。
- 使用する材料の品質
- 導入している設備の性能
- 依頼する歯科技工士の技術料
- 治療にかける時間や手間
- 治療後の保証の有無
価格だけで判断するのではなく、どのような材料を使い、どのような治療を行うのか、内容についてもしっかりと説明を受け、信頼できる歯科医院を選ぶことが大切です。
まとめ
ここまで、保険診療と自費診療の違いについて、様々な角度から解説してきました。
大切なのは、どちらが絶対的に良い・悪いということではなく、ご自身の価値観やライフプランに合った選択をすることです。
費用を抑えて基本的な機能を回復したいのか。
それとも、将来的な健康や、口元の美しさへ投資したいのか。
20年以上、多くの患者さんと向き合ってきて感じるのは、納得のいく治療のためには、ご自身の希望をしっかりと医師に伝え、よく相談することが何よりも重要だということです。
この記事が、あなたの「納得できる選択」のための一助となれば、歯科医師としてこれほど嬉しいことはありません。
不安な点があれば、ぜひかかりつけの先生に相談してみてくださいね。
治療費に関する不安や、どの治療法が自分に合っているかなど、具体的なご相談がありましたら、お近くの信頼できる歯科医院でカウンセリングを受けてみることをお勧めします。
まずは相談だけでも大丈夫です。
あなたの歯の健康について、一緒に考えてくれるはずです。