「毎日きちんと歯を磨いているはずなのに、歯医者さんに行くと『磨き残しがありますね』と言われてしまう…」「自己流の歯磨きで、本当に効果があるのか不安…」

毎日当たり前のように行っている歯磨きだからこそ、ふとした瞬間にそんな疑問を感じる方は少なくないのではないでしょうか。

こんにちは。東京都文京区で「坂本歯科クリニック」を開業しております、歯科医師の坂本祥子です。私自身、子どもの頃に歯並びのことで長く悩み、矯正治療を受けた経験から、「歯」がその人の生活や気持ちにどれほど大きな影響を与えるかを実感してきました。だからこそ、患者さんにはできるだけ専門用語を使わず、心に寄り添った対話を大切にしています。

この記事では、そんな私の経験も踏まえながら、皆さんが抱える歯磨きの疑問や不安を解消し、一生ものの健康な歯を手に入れるための「本当に効果的な磨き方」を、分かりやすく丁寧にお伝えしていきます。毎日の習慣を少し見直すだけで、あなたのお口の未来は大きく変わります。ぜひ、最後までお付き合いくださいね。

なぜ今、歯磨きを見直すべきなのでしょうか?

「歯磨きは子どもの頃から毎日しているし、今さら見直す必要なんて…」と思われるかもしれません。しかし、長年の習慣だからこそ、知らず知らずのうちに自己流の癖がつき、効果的な磨き方ができていないケースが非常に多いのです。まずは、歯磨きの本当の目的と、その重要性について改めて考えてみましょう。

歯磨きの本当の目的:ただの「清掃」ではありません

歯磨きの最大の目的は、歯の表面に付着する「歯垢(プラーク)」を取り除くことです。歯垢は、単なる食べカスではありません。実は、おびただしい数の細菌が塊となって、歯の表面に強力に付着した「バイオフィルム」と呼ばれる、いわば“細菌のすみか”なのです。

この歯垢を放置すると、細菌が作り出す酸によって歯が溶かされ「虫歯」になったり、歯茎に炎症が起きて「歯周病」が進行したりします。歯垢は粘着性が高いため、うがいだけでは決して取れません。歯ブラシの毛先をきちんと当てることで、物理的にこすり落とす必要があるのです。

お口の健康は、全身の健康につながっています

そして近年、お口の健康が、私たちの全身の健康状態と深く関わっていることが、多くの研究で明らかになってきました。例えば、歯周病菌が血管を通って全身に広がり、糖尿病心臓病、さらには認知症などのリスクを高める可能性があることが指摘されています。

厚生労働省のe-ヘルスネットでも、歯周病と全身疾患の関連性について注意喚起がなされています。詳しくは厚生労働省e-ヘルスネット「歯周病の予防と治療」をご覧いただくと、より理解が深まるでしょう。

つまり、毎日の正しい歯磨きは、お口の中を清潔に保つだけでなく、将来の様々な病気を予防するための、非常に重要な「健康への投資」と言えるのです。

あなたもやっていませんか?多くの人がやりがちな「NG歯磨き」チェックリスト

「自分は大丈夫」と思っていても、意外と多くの方に当てはまるのが、無意識の「NG歯磨き」です。ご自身の毎日の習慣を、ぜひ一度チェックしてみてください。

やってしまいがちなNG歯磨きなぜNGなのでしょうか?
力を入れてゴシゴシ磨いている歯や歯茎を傷つけ、知覚過敏や歯肉退縮(歯茎が下がる)の原因になります。歯垢は、強い力でなくても軽い力で十分に落とせます。
歯ブラシを1ヶ月以上交換していない毛先が開いた歯ブラシでは、歯の表面や歯と歯茎の境目にきちんと毛先が当たらず、歯垢の除去率が大幅に低下してしまいます。
歯磨き粉をたっぷりつけている泡立ちが良すぎると、短時間で「磨いた気」になってしまい、結果的に磨き残しが多くなる傾向があります。
歯ブラシを水で濡らしてから歯磨き粉をつける歯磨き粉がすぐに泡立ってしまい、有効成分(フッ素など)が歯に届く前に流れてしまいやすくなります。
歯磨きの時間が短い(2分未満)全ての歯を丁寧に磨くには、最低でも2〜3分は必要です。時間が短いと、どうしても磨き残しが多くなります。
いつも同じ場所から磨き始めている磨き始めは集中していますが、終わり頃には集中力が切れがちです。いつも同じ場所からだと、特定の場所ばかり磨き残す原因になります。

いかがでしたか?一つでも当てはまる項目があった方は、ぜひこの機会に歯磨き方法を見直してみましょう。次の章では、具体的な改善方法を詳しく解説していきます。

歯科医が教える「本当に効果的な」歯磨きメソッド

それでは、ここから具体的な歯磨きの方法について、3つのステップに分けて詳しく見ていきましょう。まずは、毎日使う「道具」の選び方からです。

ステップ1:自分に合った「道具」を選びましょう

どんなに磨き方が正しくても、使う道具が合っていなければ効果は半減してしまいます。ご自身のお口の状態に合った、最適なパートナーを見つけることが大切です。

歯ブラシの選び方

ドラッグストアに行くと、本当にたくさんの種類の歯ブラシが並んでいて、どれを選べば良いか迷ってしまいますよね。歯ブラシ選びで大切なポイントは、「ヘッドの大きさ」「毛の硬さ」「毛先の形」の3つです。

  • ヘッドの大きさ:ご自身の歯2本分くらいの大きさが目安です。ヘッドが大きすぎると、奥歯などの細かい部分に届きにくくなります。小回りの利く、少し小さめのものを選ぶと良いでしょう。
  • 毛の硬さ:基本的には「ふつう」をおすすめします。歯茎が腫れていたり、出血しやすかったりする方は、一時的に「やわらかめ」を使うと良いですが、歯垢を落とす効率は少し下がります。「かため」は歯や歯茎を傷つけるリスクが高いので、あまりおすすめできません。
  • 毛先の形:様々な形がありますが、特別なこだわりがなければ、まっすぐで平らな「平切り(ひらぎり)タイプ」が、歯の表面に均等に当たりやすく、基本的な歯垢除去に適しています。

そして、どんなに良い歯ブラシでも、使っているうちに毛先は開いてしまいます。毛先が開いた歯ブラシでは、清掃効果がガクンと落ちてしまいますので、1ヶ月に1本を目安に、定期的に新しいものに交換する習慣をつけましょう。

電動歯ブラシと手磨き、どちらが良い?

最近は電動歯ブラシを使っている方も増えましたね。「手磨きと比べてどう違うの?」と、よくご質問をいただきます。それぞれのメリット・デメリットを理解して、ご自身に合った方を選びましょう。

メリットデメリット
電動歯ブラシ・短時間で効率的に歯垢を除去できる
・手が疲れにくい
・製品によっては、磨き残しをチェックできる機能などがある
・価格が高い
・充電や替えブラシのコストがかかる
・正しい当て方ができないと、歯や歯茎を傷つける可能性がある
手磨き・価格が安く、手軽に始められる
・自分の手の感覚で、力加減や磨き方を調整しやすい
・どこでも手軽に使える
・正しく磨くには技術が必要
・磨き方によっては、磨き残しが多くなりやすい
・時間がかかり、手が疲れやすい

一概にどちらが良いとは言えませんが、手磨きに自信がない方や、もっと効率的にケアしたいという方には、電動歯ブラシはとても良い選択肢です。一方、手磨きでも、正しい方法をマスターすれば、十分に歯垢を除去することは可能です。

歯磨き粉の選び方と使い方

歯磨き粉は、フッ素が配合されているものを選びましょう。フッ素には、歯の質を強くし、虫歯菌が出す酸に溶けにくい歯にする効果や、初期の虫歯を修復する「再石灰化」を促進する効果があります。

使う量は、たくさんつければ効果が上がるというものではありません。むしろ、泡立ちすぎて磨けていない部分が見えにくくなり、磨き残しの原因にもなります。大人の場合は、歯ブラシの毛先に「米粒大〜小豆大」程度の少量を乗せるだけで十分です。

また、歯磨き後のうがいは、少量の水(15ml程度、おちょこ1杯くらい)で1回だけにするのがおすすめです。何度もブクブクうがいをしてしまうと、せっかくのフッ素がお口の中から流れ出てしまいます。少し物足りなく感じるかもしれませんが、ぜひ試してみてください。

ステップ2:「基本の磨き方」をマスターしましょう

道具を揃えたら、いよいよ実践です。ここでは、歯磨きの基本となる「持ち方」「順番」「動かし方」の3つのポイントをご紹介します。

歯ブラシの持ち方:やさしく握る「ペングリップ」

皆さんは歯ブラシをどのように持っていますか?ぎゅっと握りしめる「パームグリップ」は、力が入りすぎて歯や歯茎を傷つける原因になりがちです。おすすめは、鉛筆を持つように軽く握る「ペングリップ」です。余計な力が入らず、歯ブラシの毛先を細かくコントロールしやすくなります。

磨く順番を決める:自分だけの「歯磨きルート」

磨き残しを防ぐために、非常に効果的なのが「磨く順番を決めておく」ことです。例えば、

  1. 右上の奥歯(外側)からスタート
  2. 上の歯の外側を左の奥歯まで磨く
  3. そのまま左上の奥歯(内側)を磨く
  4. 上の歯の内側を右の奥歯まで磨く
  5. 下の歯も同様に、外側から内側へ
  6. 最後に、上下の歯の噛み合わせの面を磨く

このように、自分なりの「歯磨きルート」を決めておけば、いつも同じ場所から磨き始めて特定の場所を磨き忘れる、といったことを防げます。ぜひ、ご自身のやりやすい順番を見つけてみてください。

推奨されるブラッシング法:2つの基本テクニック

歯磨きの方法にはいくつか種類がありますが、ここではぜひマスターしていただきたい代表的な2つの方法をご紹介します。

1. スクラビング法(歯の表面を磨く基本のテクニック)

歯の表面に対して歯ブラシの毛先を直角(90度)に当て、軽い力で小刻みに(5mm幅くらい)往復運動させる方法です。歯の表面についた歯垢を効率よく落とすことができます。比較的簡単で、どなたでも習得しやすい基本的な磨き方です。

2. バス法(歯周病予防に効果的なテクニック)

歯周病が気になる方、予防したい方に特におすすめなのが「バス法」です。これは、歯と歯茎の境目にある「歯周ポケット」の中の歯垢をかき出すことを目的とした磨き方です。

歯と歯茎の境目に対して、歯ブラシの毛先を45度の角度で当てます。そして、歯周ポケットに毛先が少し入るくらいの軽い圧で、小刻みに優しく振動させるように磨きます。1〜2本ずつ、丁寧に磨き進めていくのがポイントです。この方法は、ライオン歯科衛生研究所のウェブサイトでも詳しく解説されており、セルフケアの質を高める上で非常に重要です。

いきなり全てを完璧に行うのは難しいかもしれません。まずは「スクラビング法」で歯の表面を、「バス法」で歯と歯茎の境目を意識するなど、2つの方法を使い分けることから始めてみましょう。

ステップ3:「部位別のコツ」で磨き残しゼロへ

基本の磨き方をマスターしたら、次は「磨き残しやすい場所」を意識して、さらにケアの精度を上げていきましょう。多くの方が苦手とするポイントと、その攻略法をご紹介します。

  • 奥歯の奥(親知らずのあたり)
    お口を大きく開けすぎると、かえって頬の肉が邪魔をして歯ブラシが届きにくくなります。少しお口を閉じ気味にして、歯ブラシを斜め横からそっと差し込むように入れるのがコツです。
  • 前歯の裏側
    特に下の前歯の裏側は、唾液腺の出口が近く、歯石が付きやすい場所です。歯ブラシを横にしたままだと毛先がうまく当たりません。ここでは歯ブラシを「縦」に持ち、歯ブラシの「かかと」や「つま先」の部分を使って、歯を1本1本かき出すように磨きましょう。
  • 歯並びがデコボコしているところ
    歯が重なっていたり、ねじれていたりする部分は、普通に磨いただけでは毛先が届きません。ここでも歯ブラシを縦にしたり、斜めから当てたりと、歯ブラシの角度を工夫することが大切です。1本1本にしっかり毛先が当たっていることを、鏡を見ながら確認すると良いでしょう。どうしても磨きにくい場合は、「タフトブラシ」という毛束が一つになった小さなブラシを使うのも非常に効果的です。
  • 歯と歯の間
    実は、歯ブラシだけでは絶対にきれいにできない場所、それが「歯と歯の間」です。この部分のケアについては、次の章で詳しくお話ししますね。

歯磨きの効果を最大化する「プラスワン」ケア

ここまで、正しい歯ブラシの使い方について詳しく解説してきましたが、実は、どんなに完璧に歯ブラシを使っても、それだけではお口のケアは十分とは言えません。最後の仕上げとして、ぜひ取り入れていただきたいのが「歯と歯の間のケア」です。

歯ブラシだけでは不十分な理由

歯ブラシの毛先が届くのは、歯の表面や噛み合わせの面、そして歯と歯茎の境目の一部です。しかし、歯と歯が隣り合っている面、つまり「歯間部」には、歯ブラシの毛はほとんど届きません。

ある調査では、歯ブラシだけで除去できる歯垢は、全体の約60%に過ぎないというデータもあります。残りの40%の歯垢は、主にこの歯間部に残ってしまうのです。虫歯や歯周病の多くが、この歯間部から始まるのは、まさにこのためです。

デンタルフロスと歯間ブラシのすすめ

そこで活躍するのが、「デンタルフロス」と「歯間ブラシ」です。これらは、歯ブラシが届かない歯と歯の間の歯垢を効果的に除去するための専門の道具です。

  • デンタルフロス:糸状の清掃用具で、歯と歯が接している狭い隙間に通して使います。比較的隙間が狭い方、若い方におすすめです。
  • 歯間ブラシ:小さなブラシで、歯と歯茎の間の少し広くなった隙間に通して使います。歯茎が少し下がってきた方、ブリッジなどの被せ物をしている方におすすめです。

どちらを使えば良いか分からない場合は、歯科医院で相談すれば、ご自身のお口の状態に合ったものや、適切なサイズを教えてもらえます。

使い方は、慣れるまで少し難しく感じるかもしれませんが、鏡を見ながらゆっくり行えば大丈夫です。無理に力を入れて歯茎を傷つけないように注意してください。1日に1回、特に汚れが溜まりやすい就寝前の歯磨きのタイミングで、歯ブラシの前に使うのがおすすめです。

最初は面倒に感じるかもしれませんが、一度習慣にしてしまえば、お口の中の爽快感が全く違うことに驚かれるはずです。歯ブラシと合わせて使うことで、セルフケアの質は格段に向上します。

まとめ

今回は、歯科医師の立場から「本当に効果的な歯磨き」について、詳しくお話しさせていただきました。最後に、大切なポイントをもう一度振り返ってみましょう。

  • 歯磨きの目的を再認識する:歯磨きは、虫歯や歯周病の原因となる「歯垢」を取り除くためのものであり、お口の健康、ひいては全身の健康を守るための第一歩です。
  • 「やさしい力」と「小刻みな動き」が基本:力を入れてゴシゴシ磨くのは逆効果。ペングリップで歯ブラシを持ち、軽い力で細かく振動させるように磨きましょう。
  • 自分に合った道具を選ぶ:歯ブラシは「ヘッドが小さめ、毛の硬さはふつう」が基本。フッ素配合の歯磨き粉を適量使いましょう。
  • 磨き方を使い分ける:歯の表面は「スクラビング法」、歯周病が気になる歯と歯茎の境目は「バス法」を意識すると、より効果的です。
  • 「プラスワン」ケアを習慣に:歯ブラシだけでは届かない歯と歯の間の汚れは、デンタルフロスや歯間ブラシを使って必ずケアしましょう。

今日からすべてを完璧に実践するのは、難しいかもしれません。まずは、ご自身の歯磨き習慣の中で「これならできそう」と思うもの一つからでも、ぜひ取り入れてみてください。その小さな一歩が、10年後、20年後のあなたのかけがえのない歯を守る、大きな力になります。

もし、ご自身の磨き方に不安があったり、お口のことで気になることがあったりしたときは、決して一人で悩まず、どうぞお気軽に、かかりつけの歯科医院にご相談くださいね。私たち歯科医師や歯科衛生士は、皆さんが健やかな毎日を送るためのお手伝いができることを、心から願っています。